- 2018.09.20
- 書評
監督の目から見て、とても映画的だと感じられた小説の描かれ方とは。
文: 河瀨直美 (映画監督)
『朝が来る』(辻村深月 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
本書は、四章からなる作品である。第一章は栗原佐都子の現在。第二章は佐都子の過去から現在に至るまでの18年間の出来事。第三章は片倉ひかりの過去から現在までの8年間の出来事。そして第四章は佐都子、ひかり、朝斗が一堂に会する「今」を克明に描く。
全体のバランスとしては、352ページ中、佐都子を描く前半の第一章、第二章があわせて151ページ。ひかりを描く第三章が173ページと、概ねふたりの女性の人生はバランスよく描かれている。けれど読み終わった後の印象としては、「ひかり」に感情移入している人も多くいるのではないだろうか? その理由のひとつとして、「ひかり」の人生は物語の半ば以降に時系列で13歳から21歳までの8年間を描いているのに対して、佐都子の人生は現在と過去が交錯しながら物語が展開する。この構成で作者が物語の全体像を最初から決めて書き始めたのかどうかは定かではない。しかし、もちろんこのふたりの女性を主人公として物語を描くことは最初から決まっていただろう。そして佐都子の現在は、今の日本社会が抱えている問題を浮き彫りにするという観点からも、とても興味を持つ導入である。
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