- 2018.10.02
- 書評
登場人物ひとりひとりの「生」を肯定するかのような著者のまなざし
文:江南亜美子 (書評家)
『太陽は気を失う』(乙川優三郎 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
男女の愛の物語がおおいが、親と子の関係を描いたものもおおい(両方のテーマが結びついているものも)。田舎で暮らす老いた親世代と、都会で自立した暮らしを送る娘や息子が、経済的な事情から縁という鎖を断ち切れない状況も、いくつか描かれる。親には親の人生が、子には子の人生があり、都会に出たときには夢も、出ることへの高揚感にまぎれた罪悪感も抱いていただろうが、やがてそれは残してきた老いた人たちへの深い哀れみとなる。一方で、親の側にも子には頼りたくない、哀れまれたくないとのプライドもあるから、関係は複雑なのだ。
アメリカに暮らす女友達の絵里と旅行に出かける「考えるのもつらいことだけど」では、自身も乳がんを経験した真智子が、絵里のがんの再発を知る。独り身の真智子に対して、絵里にはアメリカ人の夫と子供たちがいる。高額な抗がん剤治療の費用は夫の医療保険で賄える絵里だが、まだ自立せぬ子供や夫との関係、なによりも普段は遠く離れた地で暮らす親の介護問題などが、心配事となってふりかかり、その痩身をさらにやつれさせた。
誰に、どれほど頼ることが許されるのか。当然ながら、子は成長するにつれて親とは異なる人間になる。親が望んだような子にはならず、子から見た親が望ましい存在でなくなることも多くある。血縁があるゆえに、やっかいな感情をもてあましてしまうのが、親子という関係なのだろう。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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