休日にはふたりで買い出しに行き、一週間分の食料を手に入れる。妻が常備菜を作っているあいだに、こちらは風呂を隅々まで掃除する。
妻にしてみれば、夫が自分の楽しみのためだけに休日にひとりで出かけるなんて、不公平だという感覚があるのだろう。
せめて一日であればお許しも出やすかったかもしれないが、泊りがけとなると不興を買うのも無理はなかった。
――俺がおらんあいだ、そっちも好きなことをしてたらええやん。
そう伝えたら、妻の機嫌はますます悪化した。
――好きなことなんか、ないもん。
趣味と呼べるものが妻にはなかった。それゆえに、思いつめているのかもしれない。喪失感をどうすることもできないのだろう。
気晴らしすらできない。
楽しみ、希望、生きがい……。そんなふうに思えるものがなく、ぽっかりと空白になったままだ。
妻は恨みがましい目をして、こちらを見た。
――私の体はまだ本調子ちゃうのに、ひとりで遊びに行きたいとか、信じられへん。
そんなふうに責められるであろうことは予測していた。これまでに夫婦として、大きなものから些細なものまで何度もトラブルを経験しているので、相手の思考パターンはだいだい読める。
いつもの自分なら、ひとりで出かけたいという要求を取り下げることを選んだであろう。妻のそばにいて、妻の望むようにしていれば、とりあえずの平穏は保たれる。しかし、それでは駄目になっていく一方だという気がした。だから、あえて敢行したのだった。
大きなリュックサックを背負って、家を出た。
妻がこちらを見る目は「裏切り者」と言いたげだった。
そうではないことを説明したかったが、うまく言葉を見つけられなかった。
どんどん歩いて、阪急電車の鉄橋をくぐりぬける。
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