- 2019.01.24
- 書評
人の話を聞かない、嘘をつく、謝らない、見栄を張る……「困った人々」が一線を超えた時
文:大矢博子
大矢博子が『昨日がなければ明日もない』(宮部みゆき 著)を読む
出典 : #週刊文春
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
困った人々が一線を超えると……
人の話を聞かない、嘘をつく、謝らない、見栄を張る、人のせいにして攻撃する、他者の事情や気持ちを想像できない……。読者が「こういう人いるいる。知ってる」と思ってしまうほどリアルでおなじみの困った人々。それが一線を超えると、人を傷つけて喜ぶ悪意になり、人を蝕む毒になる。おなじみだからこそ杉村三郎の眼を通して描かれる家族の問題は、そのまま社会の姿となり、読者の物語となるのだ。
宮部みゆきはそんな毒や悪意を解消する方法ではなく、それらに対処しきれずに傷つく側の姿を描いた。毒は、悪意は、存在する。なくせない。そんな世の中でも正しくありたいと願う側の姿を描いた。救えずとも寄り添う探偵を描いた。
これは本シリーズすべてに通じるテーマである。
毒や悪意と向き合うのはきつい。毒に毒されず、悪意に倒されずにいるにはどうすればいいのか。心優しき探偵が一緒に考えてくれる。そんな物語である。
みやべみゆき/1960年、東京都生まれ。87年に「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞しデビュー。99年『理由』で直木賞、2007年『名もなき毒』で吉川英治文学賞を受賞。
おおやひろこ/書評家。1964年、大分県生まれ。著書に『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』などがある。
こちらの記事が掲載されている週刊文春 2019年1月17日号
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