書評

杉村三郎は見る、この世のすべてを。私立探偵としての活躍、本格的に開始!

文: 杉江松恋 (書評家)

『希望荘』(宮部みゆき 著)

『希望荘』(宮部みゆき 著)

 かくして彼は人里へ出でぬ。

 杉村三郎が主人公を務める連作は、二〇〇〇年代以降の宮部みゆきにとって大事なシリーズであり続けてきた。最初の三作はすべて長篇で、『誰か Somebody』(二〇〇三年)、『名もなき毒』(二〇〇六年)、『ペテロの葬列』(二〇一三年)と、文春文庫に収められる前の単行本はそれぞれ実業之日本社、幻冬舎、集英社と版元をまたぐ形で刊行され、第二、三作は地方紙で連載が行われた。間口を広くとり、一人でも多くの読者に杉村三郎という主人公をお目見えさせたい、という作者の親心のようなものを感じる。
 このシリーズは、一口で言えば杉村三郎の目から社会を見る小説である。杉村はごく普通の常識と知性、そして人よりは少し多めの好奇心を持った中年男性だ。その彼から見える範囲で自分の住む社会が描写され、起こる出来事についての考えが話される。そういう形で、杉村の目を通して読者もまた社会を見るのである。必ずしもいつも公平であるとはいえず、哀しいことも起こる、しかしそこで暮らしている人の多くはまっとうに生きようとしている、この私たちの社会を。



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