書評

人の話を聞かない、嘘をつく、謝らない、見栄を張る……「困った人々」が一線を超えた時

文: 大矢博子

大矢博子が『昨日がなければ明日もない』(宮部みゆき 著)を読む

『昨日がなければ明日もない』(宮部みゆき 著)

 杉村三郎シリーズ第五作にして、私立探偵・杉村三郎シリーズ第二作である。

 と、いささかややこしい紹介になってしまうのは、『誰か Somebody』『名もなき毒』『ペテロの葬列』という最初の三長編での杉村三郎は、まだ私立探偵ではなかったからだ。誠実で優しい会社員であり夫であり父だった彼が初期三作を通して人生の転機を迎え、第四作となる『希望荘』で〈私立探偵・杉村三郎〉が誕生したのである。

 杉村三郎は、私立探偵と聞いて想像するようなハードボイルドではない。家主の孫の入学式でビデオを回し、町内の豆まきや餅つき大会に駆り出され、近所のおばちゃんの口コミで相談者が来るような、生活感に溢れた心優しい探偵だ。

 だから彼のもとに持ち込まれる依頼は、警察の向こうを張るような犯罪事件ではなく、家族や地域の些細ないざこざが中心。だが、だからこそ、そこには私たちのすぐ隣にある悪意や毒がまざまざと浮かび上がるのである。

 本書『昨日がなければ明日もない』には三編が収録されている。

 一昨年結婚した娘が自殺未遂を起こしたのに、その夫が事情を話さないばかりか、断固として母親と娘を会わせないという「絶対零度」。絶縁中の親戚の結婚式に、杉村が代理出席を頼まれる「華燭」。離婚で手放した息子が殺されかけたと、エキセントリックな母親が騒ぐ表題作。

 大きな闇が背後に潜んでいたり刑事事件に発展したりするものもあるが、注目願いたいのは、各編に登場する〈厄介な人々〉だ。

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こちらの記事が掲載されている週刊文春 2019年1月17日号

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