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六代 豊竹呂太夫×大島真寿美〈文楽〉というワンダーランド#前編

六代 豊竹呂太夫×大島真寿美〈文楽〉というワンダーランド#前編

「オール讀物」編集部

『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』刊行記念

出典 : #オール讀物
ジャンル : #歴史・時代小説

『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』(大島真寿美 著)

四位一体で物語と対峙

大島 歌舞伎が盛んになって、文楽と双方で影響しあったというのもありますよね。

呂太夫 たとえば、この時代の人形遣い、初代吉田文三郎が、現在のような三人遣いの人形に挑戦したのも、これまでなかった大きな人形で、お客さんを驚かせようとしたんじゃないかと思います。そもそも、人形浄瑠璃の方が舞台のからくりや仕組みが先行していて、歌舞伎はそれらに大きな影響を受けていたわけですから。

大島 さらに人気のある場面が歌舞伎になって、人形ではなく人間が演じるようになっていったわけですね。同じ場面でも両方を観ていると、文楽の方が言葉がより頭に入ってくるからだと思うんですけど、物語性が強いというか、その世界観に断然、入り込みやすいです。

呂太夫 それは文楽が人形だからでしょう。単なる木偶というか、木片を観て、お客様は喜怒哀楽を感じられるわけです。僕らは太夫、三味線、人形の三位一体でストーリーに喜怒哀楽をこめていきますけど、悲しいと泣いたり、可笑しいと笑うのはお客さんの感情で、それも合わせての全員で四位一体。皆が単なる無表情なものに自分を投影して、ひとりひとりの物語を作るんです。これが文楽の素晴らしさじゃないかと思うんですよね。自分の想像力によって喚起された、〈私の〉物語であって、決して誰かに感化されたものではない。

大島 本当に自分と物語が対峙して、そこに入っていくような気がします。いまの歌舞伎は通しというのはほとんどなく、一部だけを上演するので、文楽を観るようになってから、ようやく全体の構造が分かったことも度々ありました。歌舞伎で贔屓の役者さんを観るのも幸せですけど、この小説を書いて文楽を観るようになって、もっと早くから観ていればよかったと後悔しています。

呂太夫 ドラマに集中できるから、長年歌舞伎を観てきた方でも、そうおっしゃる方は多いですね。文楽のプロモーション力は弱いし、人形劇だからおもしろくない、という声を聞くこともあるのは残念です。

大島 声を大にして「それは本当に損をしてますよー」と言いたい(笑)。

呂太夫 大島さんは昔、アングラ芝居の脚本も書かれていたとか?

大島 はい。芝居をやっていた当時は、けいこの時に脚本が全部は完成していないんですよ。一生懸命、毎日書き続けながらちょっとずつ進めていく。後になってから、それは小説の連載も同じだと気がついたんですけど、今回、期せずして楽屋裏のものを作る感じが、半二たちが芝居を作っていくところと似ているというか、自分の経験が小説の中にも自然に入っていきました。

呂太夫 意外に思われるかもしれませんが、僕もアングラ芝居が好きで、よう通った時期があったんです。もともと不条理なもの、シュールなものに惹かれて、よく分からんけど楽しい。小説でも倉橋由美子の『パルタイ』や大江健三郎の『万延元年のフットボール』なんかを夢中になって読みました。文楽はお祖父さん(人間国宝の十代豊竹若太夫)がやっていたけど、辛気臭いし流行らんしと、ずっと思っていました。結局、周りの勧めでお祖父さんのお弟子さんに弟子入りした時も、駄目だったら大阪から蒸発して、どこか地方で小説家を目指そうかと考えていたくらいです。

 それがいざこの世界に入ったら、太夫が言っていることは訳が分からないし、三味線はベンベン鳴ってるし、人形の横には人形遣いの顔があってそれが邪魔で……とか(笑)。ぞろぞろ黒衣もいて、大の男が大勢でドタバタしている。でもでも、それはそれでえらいシュールやなあと。舞台は舞台で大道具やら背景やらが、目が眩むほどきれいだった。ふと、アングラと同じ感覚でおもろい、と感じて、もうちょっとここへ居ようか、と思いつつ、五十年以上が経ちました。近松門左衛門も、並木宗輔も、半二らの素晴らしい作品は、江戸の言葉で書かれていますけど、それをお客さんの前でこの時代に語れている。こんな幸せなことはありませんね。

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単行本
妹背山婦女庭訓 魂結び
大島真寿美

定価:2,035円(税込)発売日:2019年03月11日

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