文楽との奇跡の出い
呂太夫 そもそもなぜ半二を主人公に小説を書こうと思われたんですか? 大島さんの小説のファンにとっても、江戸時代の人形浄瑠璃をモチーフにするのは画期的というか、すごく意外なことでしたよね。
大島 それは、何といっても『妹背山婦女庭訓』の作者だからです。
呂太夫 文楽でご覧になったことがきっかけですか?
大島 もともとは歌舞伎です。昔から歌舞伎が好きで色々と観ていて、それを知っている担当編集さんから「そんなに好きなら、歌舞伎の小説を書きましょうよ」とずっと言われていました。でも、いくら好きだって小説にするのはとても無理ですよ。それなのに、ふと『妹背山婦女庭訓』だったら書ける気がして……そこから妹背山のことを調べはじめました。もちろんすぐにはじまりは浄瑠璃=文楽だということに気がついて、そこから猛勉強がスタートしました。
呂太夫 それを聞くと、あんまり文楽も知らんのに、ようここまで突っ込んでいけたと改めて驚きますわ(笑)。
大島 最初にレクチャーいただいた櫻井弘先生(現・日本芸術文化振興会理事)も呆れていたと思います。ただ、学んでいくうちに本当に書けるような気持がして、この道を進めば大丈夫だという確信が濃くなってきました。ちょうどその頃、文楽で『妹背山婦女庭訓』の「杉酒屋の段」から「金殿の段」までを観ることができたのも大きかったですね。人形のお三輪ちゃんに魂をもっていかれて……。
呂太夫 やはりそこに何か感動があったんじゃないですか。
大島 それはもちろん! とにかくお三輪ちゃんのことが書きたくなりました。その後も、歌舞伎で四十五年ぶりに「井戸替の段」を上演したり、さらに翌年は、大阪の国立文楽劇場で久しぶりに通し上演があったり、短期間にどんどん妹背山を観ることができたのは、本当に半二の導きだった気がします。
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。