待望の通し上演に向けて
呂太夫 いよいよ、この五月は『妹背山婦女庭訓』が東京の国立劇場で通し上演されます。
大島 普段は小説を読んで妹背山が観たいと思っても、なかなか観る機会には恵まれません。しかも滅多にない通し上演ということで、もう興奮しきりですが、大序の「大内の段」は九十八年ぶりに舞台にかかるそうですね。
呂太夫 そんなに久しぶりだとは知りませんでした。おそらく原本と三味線の譜は残っているし、ひと月くらい稽古をしたら大丈夫でしょう。
大島 蘇我蝦夷や息子の入鹿、藤原鎌足といった物語の骨格がこうなっているというのが分かるので、初めて観る方でも全体の流れはみやすくなると思います。その分、説明的になるでしょうから、半二のスペクタクルなところは、その後のお楽しみということですね。
呂太夫 どの段を語らせてもらっても光栄ですけれど、実は、最後の「金殿の段」も僕はすごく好きなんですよ。いきなり鱶七(鎌足の忠臣・金輪五郎)の手にかかって、お三輪があっけなく死んでしまうでしょう。あそこでお三輪が心から「私がお役に立てた」とすべて悟って去っていく場面がね。
大島 そうおっしゃると、師匠の「金殿」が俄然、聴きたくなりました。私は、今回の通し上演のタイミングも含め、文楽『妹背山婦女庭訓』を多くの人に見てもらえるように、半二が『渦』という小説を書かせたんだと思っているんですけど、書き終えてからも、ますます文楽の世界に引き込まれていく気がします。お師匠さま、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
豊竹呂太夫
一九四七年大阪府生まれ。六七年入門、豊竹英太夫を名乗る。二〇一七年六代豊竹呂太夫襲名、第四十七回JXTG音楽賞邦楽部門受賞。
大島真寿美
一九六二年生まれ。「春の手品師」で文學界新人賞。『ピエタ』が本屋大賞第三位。二〇一四年『あなたの本当の人生は』が直木賞候補。著書多数。
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