
高杉は取材・執筆の問題意識についてこう話す。
「労働貴族と呼ばれる人たちがいますね。組合といっても昔の組合と違って、企業内組合はまさに会社と一体でしょう。完全に会社と組合のトップが癒着しているから、限りなく労働貴族になっていくわけです。その癒着ぶりをえぐり出したかったのです」(高杉良・佐高信『日本企業の表と裏』)
「取材を進めると、日産の経営をいかに労組が捻じ曲げ蝕(むしば)んでいるか、労組幹部がいかに高待遇を受けて一般の組合員の上に胡座(あぐら)をかいているか、それが分かってきたのです。労務関係の幹部人事はおろか、役員人事にまで介入していたのですから、ひどい話です」(高杉良『男の貌(かお) 私の出会った経営者たち』)
関連会社を含めて二三万人もの組合員を擁し、「天皇」と呼ばれた労組トップが経営戦略や役員人事にまで口を出す。本書で描かれる、石原が労組から支援されていた副社長小牧正幸を退任させる際の二人の緊迫したやりとりは作品全体を貫くモチーフとなる。
「小牧さんの退任を撤回してもらえませんか。そうしていただけたら、組合としてもあなたに全面的に協力できるんですがねえ」
(中略)
「はっきり言わせてもらうが、きみから、こんなさしでがましいことを言われるとは想像だにしなかった。組合に反対されたら、なんにもできなくなる、というようなことがあっては、経営はできないし、経営責任は果たせない」
石原は、怒りに燃える眼で、塩路を鋭くとらえた。
(中略)
「聞いてもらえないんじゃ仕方がないですね。自今一切、あなたに協力することはできません」
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『固結び』山本一力・著
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