
■第三次ブーム
高杉は二〇一九年一月で八〇歳になった。肝臓がん、前立腺肥大、黄斑と眼底出血と相次いで病気に見舞われた。それでも執筆意欲は衰えない。「書いているから元気でいられる」。自伝的作品の『めぐみ園の夏』、米リーマンショックを盛り込んだ『リベンジ』、ITベンチャーに焦点を当てた『雨にも負けず』と次々と連載・出版した。視力が衰えたため現在はルーペを使いながら、自身がかつて在籍した石油化学新聞時代の物語を書いている。『めぐみ園の夏』に続く青春編になるだろう。
ここへきて高杉作品がブームとなっている。『辞令』『出世と左遷(『人事権!』を改題)』『最強の経営者』『懲戒解雇』の文庫新装版などが業界関係者が驚くほどの売れ行きを見せた。『虚構の城』でデビューした一九七五年、映画化されて話題になった『金融腐蝕列島』を刊行した一九九七年、そして現在が第三のブームといえる状況だ。
「三〇年以上前の本がベストセラーになる。時代がいくら変化しても人の気持ちはそんなに変わるものでもないということだと思う」。生きる、働く、暮らす。人の営みに寄り添い、心情をすくい上げた作品は滅びない。
累計二千万部を刊行してきた経済小説作家はいまも同時代と向き合っている。
(文中敬称略)
※参考・引用文献
日産自動車調査部編『21世紀への道 日産自動車50年史』一九八三年
日本経済新聞社編『日産はよみがえるか』一九九五年、日本経済新聞社
高杉良・佐高信『日本企業の表と裏』一九九七年、角川書店
塩路一郎『日産自動車の盛衰 自動車労連会長の証言』二〇一二年、緑風出版
佐藤正明『日産 その栄光と屈辱─消された歴史 消せない過去』二〇一二年、文藝春秋
高杉良『男の貌(かお) 私の出会った経営者たち』二〇一三年、新潮新書
川勝宣昭『日産自動車極秘ファイル2300枚 「絶対的権力者」と戦ったある課 長の死闘7年間』二〇一八年、プレジデント社
井上久男「日産分裂 悪いのはゴーンだけか」『文藝春秋』二〇一九年二月号
ほかに、新聞記事、インターネットサイトの記事などを参照した。