暁斎から暁柳の画号を与えられている八十吉は、祖父の代から江戸川橋で質屋を営み、算術に明るい。このため、暁斎の葬儀が終わった後も費用の計算とその支払いのため、檀那寺である谷中の瑞輪寺に残っていたのであった。
「だって、お父っつぁんも見ただろう。握りこぶしほどもあろうかっていう、でっかい星だったじゃねえか」
頬を膨らませる八十五郎の頭を再度小突いてから、八十吉は懐の奥から取り出した巾着袋を鹿島清兵衛の前に進めた。まだ墨の乾かぬ書き付けを広げ、「今日のかかりはここにまとめておいたからな」と寺に支払った礼物の内訳を説明し始めた。
「それにしても、清兵衛さんの見立には恐れ入るぜ。葬式饅頭が足りなくなる無様もなければ、嫌ってほど余ることもねえ。瑞輪寺のご住持も、さすがは天下の鹿島屋のご当代と褒めておいでだったぜ」
「それは恐れ入ります。養子の身だけに店の算盤はなかなか預からせていただけませんが、それでもお役に立てることがあるとは嬉しいですね」
野辺送りが終わるや、あれほど群がっていた弔問客たちが明け方の霧のように散っていったのも、おそらくとよを休ませてやれという清兵衛の差配ゆえに違いない。
涼しげな目元に苦笑を浮かべてから、清兵衛は開け放たれたままの戸口の向こうに目をやった。ぽっかりと夜の色に切り取られたその奥で、隣家の灯がちらちらと頼りなげに揺れている。
こちらもおすすめ
プレゼント
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。