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著者によるカープの細密な分析に感じる「不完全なるもの」への惜しみない愛情」

著者によるカープの細密な分析に感じる「不完全なるもの」への惜しみない愛情」

文:西川美和 (映画監督)

『斜め下からカープ論』(オギリマサホ 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #随筆・エッセイ

『斜め下からカープ論』(オギリマサホ 著)

 いっぽうで、弓子さんはイチロー選手が試合で戦っている最中は、家でも球場でも一切ものを食べなかった。しかしそのことについてイチローさん自身は、最近まで全く知らなかったのだという記事を読みました。引退後にシアトルの球場のスタンドに初めて夫婦並んで観戦した際に、弓子さんがホットドッグを食べながら、「これが夢だった」と言って打ち明けられたのだそうです。たまたま美しい夫婦愛の例になってしまいましたが、要するにイチローさん夫妻ほど一枚岩の関係性でも、いや、一枚岩だからこそ、互いに語らず、知らぬままにしていることも多いのではないでしょうか。もしかするとその記事についても、やはり弓子さんは知らないままかもしれません。イチローさんと一面識もないただのファンたちの方が、隅々まで新聞や雑誌を読み込んで知識を溜め込み、VTRや関連番組を見あさり、暇さえあればその体のコンディションや心理について、ああでもない、こうでもない、と憶測を巡らして、もしかしたら、本人以上に本質的なことにたどり着いている可能性もあるでしょう。

文春文庫
斜め下からカープ論
オギリマサホ

定価:792円(税込)発売日:2019年07月10日

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