平成という時代にエンドマークをつけるように、イチロー選手が引退しました。非常事態時の官房長官会見なみの緊張が張り詰めて見えた引退会見もまた実にイチローさんらしい終幕だったと思いますが、遠慮がちに家庭内のことを尋ねた記者の質問に対して明かされた「おにぎり」の話は、実に心に沁みました。ホームの試合前には妻の弓子さんが欠かさずおにぎりを握ってくれたが、メジャー通算3089本のヒットに対して、おにぎりは2800個くらいで止まってしまった。妻は3000個いきたかったみたいだが、というあの話です。「カレーからおにぎりに変わった時期と理由を教えてください」と二の矢を継ぐ記者はいませんでしたが、ともかくあの鋼のような体とキレのあるプレーが、おにぎりによって保たれていたというのは意外ですし、海を渡って十九年、アメリカ生活が染み付いても巨額の収入を得てもおにぎりなのかという驚きもありました。私たちにとっては長年雲の上のスーパースターであったイチローさんですが、そんなささやかな習慣や嗜好を肌身で感じ、「人と違わない人」の部分も受け止めながら黙々とおにぎりを握るのは、ハレの日もケの日も、ただ一人ずっと傍に居合わせてきた存在ならではだと思いました。
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