「ああ、獅子丸君の敗北については箝口令敷いたから。出社していない理由については休暇とか病気とかで、あんじょうよう誤魔化しといて」
だがそれでどうにかなったのは三日が限度だった。色んな理由をつけて獅子丸の不在を誤魔化してきたが、「だったらいつなら大丈夫なんですか」と言われればもうお手上げだ。それでも社外の人間ならどうにかあしらえたが、社内ともなると当たりがキツい。
あのおっさん、根回しもなしにどうにかしろだなんて……絶対に許さねえからな。
今思えば山風は獅子丸の、いやキングレオのブランド価値を損ないたくなかったのだろう。あの獅子丸が今更引退を撤回するとは思えないが、引退するにしてもタイミングというものがある。獅子丸が引退するならそれに乗じて一儲け、獅子丸が戻ってくるのならそれはそれでという算段なのだろう。
どうあれ、もうしばらくは助けを期待できなそうだ。有にやれるのは相手がキレる限界までのらりくらりと問い合わせをかわし続けることだけだ。
そして自分のやるべきことを自覚すると急に冷静になった。
まあ、組織人としてさっきの対応はないな。イライラしていたとしても、どうにかして抑えるべきだった。一応、こちらからフォローを入れておこう。
受話器を取り、謝罪の言葉を練っていると天親大河がオフィスに入ってきた。
「烏有、ちょっといいか?」
そう言う大河の表情は強張っていて、とても深刻そうだった。
「お前がそんな顔してるってことは……獅子丸絡みか?」
大河は黙って肯く。有としても別に今すぐ謝罪の電話を入れたいわけではない。ひとまず受話器を置いて、大河の話を聞くことにした。
「実は、キングレオの権利が少々マズいことになってきた」
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。