三十億。制作費にもよるが、決して悪くない額だ。それで脅しをかけてきたということは……。
「読めたぞ。そうでなきゃ映画を自由に作らせろってか」
「そうだ。今回も含めて、脚本には僕がかなり口を挟んできたからね。特に不必要な人物を増やさないでくれってことは口を酸っぱくして言い続けた。それが向こうにとって鬱陶しかったんだろう」
「ああ、バーターの若手に変な役をやらせるなってか」
人気俳優、大物俳優のキャスティングにバーター取引は付きものだ。しかし大河の目にはおまけでついてきた若手俳優を作品に組み込むことは折角のキングレオ譚を薄めるような行為に映るのだろう。
「そして現時点での興行収入の試算は二十億なんだ。このままキングレオの映画展開を終わりにするか、それとも脚本権を向こうに握られるか……」
あと十億積むにはどうしても獅子丸自身によるプロモーションが必要ということか。
「まあ、なかなか悩ましいな……」
キングレオを末永く続くシリーズにしたいと考えている大河と、目先の興行収入が欲しい先方で意見が食い違っているわけだ。
だが有にしてみたら劇場版キングレオについては餅は餅屋で、基本は向こうに任せればいいと思っている。世に存在している長期シリーズものだって最初から十年二十年やるつもりで始めているわけではない。その時その時やれることをやった結果、それが歴史になっていっただけのことではないか。
しかし一方で大河がクオリティコントロールをしてこそのキングレオという気もする。軌道に乗る前から大河の手を離れてしまうのもそれはそれで不安だ。
「まあ、お前の悩みは解ったけど、獅子丸が表に出てこない以上どうしようも……」
そう言いかけた瞬間、タブレットPCを抱えた獅子丸がオフィスに入ってきた。
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