いずれにしてもこの革命的、破格的なルールによって導かれる当該ミステリー小説、とりわけゲーム内部描写が、すべての読者にとって抜群に面白い必要はないが、一定量以上面白いものに仕上がっていることは重要である。作者はこれによって継続的に面白い世界が現れ得ると考えているのであるから、事実作者の意図通りの世界が今回現れているものか否か、選評をもくろむなら、これを確認しなくてはならない。
ところがこれがうまくできない。まずはゲームであれば、映像に直接接して評価したくなり、これを文字に転換したもので感想を語るのは迂遠である。しかしこれは文学としての提出であるから、文字に転換された世界を評価すべきと言われるなら、その考え方に同意はできるものの、これが絶望的にむずかしい。華文で書かれているので、日本語人の自分には、文章表現に直接触れ、身を浸すことができないからだ。
華文の読める下選考委員の抱いた印象を、可能な限り詳細に問いただして心得ることしかできない。これはむろん行いはしたが、この点の検討は、ゆえに靴の裏からではないにしても、靴下越しに足を掻くようなもどかしい行為になった。
最大のポイントは以下である。犯人像と動機を描くことで成立する人間ドラマを、この作者は思い切りよく忌避し通してみせることにより、内部が純粋な推理思索の極北に近づいた。この点はあきらかであり、ここは作者の才と評価すべきである。オンラインゲームに存在し得る陥穽を表現する際、これは大なり小なり叙述のトリックに接近するわけだが、作者がここに最大限の留意を注いでこのあたりを巧みにこなしていることは明瞭で、この点に、作者の「本格」センスを充分に感じる。
しかし同時に、成熟した本格読みの多くが、達意の文体で、殺人にいたるヒトの病いのドラマを読みたい欲求も持っている、あるいは長く持ってきた。この点を鑑みる際、当該作に何か大きなものを失ってしまった感覚を抱くのも事実、という感想になる。
さらには、オンライン世界内に生じる謎を解くため、各ゲーム侵入前に条件として仔細に語られる諸ルール、すなわち解法のための道具の提出が、必要性は理解できるものの、小説としてこれを読みたい者にはいささか冗長に感じられてしまう。事実文字量も多く、この作品の原稿枚数は、この条件提示の厳密さのために、ほか二作のおよそ一・五倍に達している。
これらをネガティヴにとらえ、減点要素と心得て作に対するか否かが、この作評価の最大のポイント、あるいは“フルイ”となろう。
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