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島田荘司推理小説賞発表! 候補作選評『H.A.』(薛西斯・著)

第四回 噶瑪(かば)蘭(らん)・島田荘司推理小説賞選評

 ゲーム内部の限定的世界でアクションするキャラクターが、外部で操る人物のオフライン感情を引きずらないと仮定する時、この主張は言うなればコロンブスの卵で、ごく自然なものと了解ができ、これまで宣言されなかったことがむしろ不思議である。オンラインゲームを遊ぶ時、ヒトはそのようなものとこれを理解して侵入し、振る舞うはずである。互いのキャラクター破壊は、ゲームの要請であり、そこに深刻な動機などはない。この当然の宣言が型破りに映るのは、「オンラインゲーム内部においては」という前提が曖昧になっているからである。

 この点が綾辻世界とは事情が異なる。こちらの場合、舞台現出に最新科学技術が介在しているからだ。そう理解した上で作者による先の定義に戻れば、「眼前の現実とは異なるルールを規定し、このルールを用いて謎に解決を見いだす小説が、自分の『本格』である」は、筆者の理解では「オフラインの現実とは異なるオンライン・ルールを創造し、このルールを用いてゲーム中の謎に解決を見いだす小説が、自分の『ゲーム本格』である」という構文になる。この際、オフライン時の定型発想や慣習が、ミスディレクションとして作用することが期待できる。ただしこれは今回の創作に限った定義であり、このルールを携え、本格創作一般に踏み出すべきか否かは次の問題になる。

 かつて筆者は、一人選者として「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」を開始するにあたり、真っ先に述べたことは、「綾辻行人を落とすな」であった。それというのも、綾辻行人をはじめとする大学のミステリー研出身者の本格作品は、乱歩賞をはじめとする多くのミステリー新人賞において、ただのひとつも候補作まで昇ることさえなかったからである。

 しかし今彼らは、日本の本格ジャンルを中心になって支えている。常識の大声に負け、自分などが彼らの推薦をいっさい行わず、彼ら全員が世に出られないでいたなら、現在「本格ミステリー」という文芸ジャンルは日本に、あるいはアジアに、存在していない。

 すなわち、当時の作品評価作法には、構造的な欠陥があったと言わざるを得ない。二十一世紀の現在においても、この種の欠陥は決して判定の場に持ち込んではならない。旧作法のあれこれを無思慮に信奉することで、新表現を否定する軽率を繰り返してはならない。その意味でこの尖った、そして頭脳の肥大と未来志向を感じさせる秀作を、受賞作からはずすという決心は、筆者にはむずかしい。しかしどうしてもひとつという要求なら、『黄』を選ばざるを得ないということだ。

雷鈞 稲村文吾訳

定価:本体1,800円+税発売日:2019年07月24日


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