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『瞬きと瞬き』樋口恭介――立ち読み

『瞬きと瞬き』樋口恭介――立ち読み

樋口恭介

出典 : #文學界

「文学界 9月号」(文藝春秋 編)

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 ここにひとつながりの記憶情報がある。記憶情報ファイルのメタデータには「瞬きと瞬き」とタイトルがつけられている。その記憶情報は〈私ⅰ〉によって記銘されている。そのため私たちの記録映画は〈私ⅰ〉から始められる。

〈私ⅰ〉によるユーザー・ケース。〈私ⅰ〉は、かつて映画館にいたことを覚えている。今はまだなく、今まさに生まれつつある映画館に。

 生起する映画館。未だ建設途上にある、永遠に未完の、ニューラル・ネットワークによって編み上げられた、網状の情報生命体。発光し投射され連続的に運動する、フィルムのイメージによって想起されるもう一つの現在。そこでは全てが生成し、認識され、流動化し、可視化され、接続され、共有され、選別され、混在し、相互作用し、追跡可能な形で、問いを含み、問いに含まれ、とうに失われた始めの始まりから始まりを含み、始まりながら始まりが始まっていく。

文學界 9月号

2019年9月号 / 8月7日発売 / 定価970円(本体898円)
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