- 2019.09.26
- 書評
全米を揺るがした衝撃の実話‼ 9月27日映画公開
文:阿部重夫 (『FACTA』ファウンダー)
『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち』(マイケル・ルイス 著 渡会圭子 東江一紀 訳)
その仕組みはまさしく、東京大学工学部の石川正俊教授の研究室が開発した「勝率一〇〇パーセントじゃんけんロボット」と同じだ。人間の手のひらと、三本指の機械の手が対峙する。ジャンケンポン! 人間がグーを出しても、パーを出しても、チョキを出しても、ロボットは絶対に負けない。
その種明かしは――ポンのタイミングで人間の出した手の形を認識し、 一ミリ秒後にそれに勝つ手をロボットハンドが出す「後出しジャンケン」なのだ。悲しいかな、人間のニューロンを電気信号が伝わるスピードは、光ファイバーを伝わる機械の信号のスピードに及ばないから、後出しに気づかない。たったそれだけの錯覚から、無知な顧客を幻惑して「勝率一〇〇パーセント」の非常識を編みだすところが、ウォール街の破天荒なところだろう。
まさしくここに「フラッシュ・ボーイズ」のミソがある。単純な後出しなら、日本でも金融商品取引法で禁止されている。だが、筋肉の初動だけで先読みするタイプなら、予め仕込んだ計算式(アルゴリズム)によって、仲介業者などのもたつきが予測でき、ミリ秒、マイクロ秒の空隙を突いて先回りが可能になる。
例えば本書にもあるように、ショットガンのように小口注文を大量に散らして、それを撒き餌に大口の魚影が浮かぶと、ピラニアのように先回りで買い占めるといった手口だ。このアルゴリズムに創意ありとみなせば、規制する法はない。
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