- 2019.09.26
- 書評
全米を揺るがした衝撃の実話‼ 9月27日映画公開
文:阿部重夫 (『FACTA』ファウンダー)
『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち』(マイケル・ルイス 著 渡会圭子 東江一紀 訳)
もうひとつは、〇.〇〇一秒(ミリ秒)、いや百万分の一秒(マイクロ秒)、十億分の一秒(ナノ秒)を節約するため、光ファイバー通信回線をひたすら一直線に敷設するイカれたベンチャー「スプレッド・ネットワークス」のエピソードである。地形がデコボコだろうが、頑固な地主が立ちはだかろうが、札束で顔をはたき、掘削禁止の国立公園も政治の裏ワザを使って、野越え、山越え、川越え、農地の地下も貫通して、一攫千金ならぬ一「直」千金のいかにもアメリカらしい無茶苦茶な猪突猛進が笑える。そしてディスプレー画面で無数の数字が瞬くだけの無機質なHFTを可視化するには、これほど分かりやすいものはなかったろう。「冒険」とも「暴挙」ともいえるエピソードで本書の冒頭を飾り、読者を思わず釣り込むルイスのストーリーテラーぶりに「うまい!」と脱帽するばかりである。
このスプレッド・ネットワークス社はいまも実在する。日本では二〇一九年九月公開のベルギー・カナダ合作映画『ハミングバード・プロジェクト/0.001秒の男たち』は、このエピソードを巧みなドラマ仕立てにしてあって、『ソーシャル・ネットワーク』でザッカーバーグを演じたジェシー・アイゼンバーグ、『ターザン REBORN』主演のアレクサンダー・スカルスガルドのコンビに、二人を邪魔する元女上司の悪役に『フリーダ』のサルマ・ハエックと、なかなかの手練れを集めて面白い。ハミングバード(ハチドリ)とは、あの小刻みな羽ばたき一回の〇.〇一六秒を意味するタイトルだ。この「トンデモ」プロジェクトに巨額のカネを出させる、投資家殺しの決め台詞がじつに絶妙だった。
「つまり、タイムマシンで未来へ行き、当選番号の宝くじを知って、事前に買うようなもの」
まさに一言で超高速取引の本質、いや、そのアンフェアを言い当てている。映画の主人公たちは、その罪を贖わなければならないが、現実は異なる。証券・金融市場のほとんど非人間的な技術革新と、時差トリックによる見えざる搾取はいまも健在なのだ。
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