- 2019.09.26
- 書評
全米を揺るがした衝撃の実話‼ 9月27日映画公開
文:阿部重夫 (『FACTA』ファウンダー)
『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち』(マイケル・ルイス 著 渡会圭子 東江一紀 訳)
天はときどき二物を与えるらしい。
プリンストン大学で学士号、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で修士号を得て、ウォール街を経験したノンフィクション作家、マイケル・ルイスがまた新しい鉱脈をみつけた。今度はアメフトでも野球(『マネー・ボール』)でもなく、認知心理学(『かくて行動経済学は生まれり』)でもなく、リーマンショックを描いた『世紀の空売り』から一歩進んで、その裏で人知れず進んでいた最先端の「超高速取引」(HFT、高頻度取引ともいう)である。
勝率一〇〇パーセント! ギャンブラーとて、それが徒夢(あだゆめ)に過ぎないことは知っている。だが、超高速取引なら、一〇〇パーセントという勝率が“手品”のように可能になるのだ。
まさか!
だが、本書にも登場する米国の超高速取引業者ヴァーチュ・フィナンシャルが「創業五年半で負けは一日だけ。それも発注ミスが原因」と自慢して袋叩きにあい、二〇一四年四月予定のナスダック上場を一時中止したほどだ。
もちろん、「不敗」の手品にはからくりがある。要は、フロントランニング(先回り)もどき――顧客から注文を受けた証券会社などの仲介業者が、その売買が成立する前に注文情報をもとに有利な条件で自己売買して儲けるのに類した手口だからだ。
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