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全米を揺るがした衝撃の実話‼  9月27日映画公開

全米を揺るがした衝撃の実話‼  9月27日映画公開

文:阿部重夫 (『FACTA』ファウンダー)

『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち』(マイケル・ルイス 著 渡会圭子 東江一紀 訳)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #ノンフィクション

『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち』(マイケル・ルイス 著 渡会圭子 東江一紀 訳)

 コロケーションという「出島」を設けて、超高速取引業者という「黒船」の埠頭にしておきながら、「いやいや、あそこは日本でござる」と言い張る長崎奉行所のようなものだ。実は「利用料」という名目の貸座敷代で潤っているのは奉行所なのに、口をぬぐって知らん顔である。

 本書の衝撃が飛び火すると見てか、JPXは二〇一四年、立て続けにワーキング・ペーパーで、超高速取引が流動性を供給し、株価変動を緩やかにする、と予防線を張った。ブラックボックス化で人間の恣意が介入する余地がなくなり、かつてのように場立ちの囁きや、小耳に挟んだ電話情報から、フロントランやインサイダー取引に手を染める「原始的な」証券犯罪は成り立たなくなった、という効用論ばかり吹聴する。

 だが、それでは二〇一〇年五月六日にニューヨーク・ダウ工業株三十種平均が、十分で六〇〇ポイントも急落した「フラッシュ・クラッシュ」を説明できない。

 実は取引所の売買記録は秒単位しかなく、マイクロ秒単位で起きたデータがないからだ。微視的にはオベリスクのように売買の一点集中が起きても、巨視的には凪(なぎ)の水面としか見えず、量子力学をニュートン力学で解くにひとしい。アローヘッド導入の前後を比較したJPXのペーパーも同じ轍を踏んでいる。本書の指摘にはグウの音も出まい。

 例えば二〇一八年の東京市場は外国人による日本株売りに見舞われ、売り越し総額は五兆七千四百億円と三十一年ぶりの水準に達した。二〇一二年十二月のアベノミクス開始からの外国人の累積買い越し額がほぼ帳消しとなり、日経平均株価は一万円台に逆戻りするはずが、下落率は一割強にとどまった。そのミステリーは、売り越しの本尊が、東証売買高の五割を占める「フラッシュ・ボーイズ」勢のもうけだったとすると、ツジツマが合う。

文春文庫
フラッシュ・ボーイズ
10億分の1秒の男たち
マイケル・ルイス 渡会圭子 東江一紀

定価:957円(税込)発売日:2019年08月06日

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