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<阿部和重 ロング・インタビュー> アメリカ・天皇・日本 聞き手=佐々木敦 #1

<阿部和重 ロング・インタビュー> アメリカ・天皇・日本 聞き手=佐々木敦 #1

文學界10月号 特集 阿部和重『Orga(ni)sm』を体験せよ

出典 : #文學界

――神町トリロジーはずっとアメリカとの関係性の話なんですよね。

 阿部 日米関係、それも何世代にもわたる話です。となると最終的に、アメリカ大統領が神町に来るということをやりたかった。大統領が視察に来るくらいですから、これはもう神町が首都になっているという設定以外にはありえない。いつの段階だったか覚えてないんですけれども、『ピストルズ』を構想しているころには、その発想が生まれていた。その前に僕は『ミステリアスセッティング』という作品も書いていました。

――『ミステリアスセッティング』は、小型のスーツケース型核爆弾が国会議事堂地下で爆発する話で、単体で読んでももちろん面白いのですが、サーガ全体で見ると、このエピソードが神町に首都機能を移転するために一役買っている。全体中のピースとして考えた時にものすごく重要ですよね。『ミステリアスセッティング』がなかったら成立しない部分がいっぱいある。いまとなっては、ほとんど神町を首都にするために書かれているようにも思えてしまう。

 阿部 三部作といっても、ただ長篇を三つ並べるだけではなく、スピンオフのように世界を広げてみたいというアイデアは当初から考えていました。いわゆるユニバース的に……マーベル・シネマティック・ユニバースというシリーズがあるでしょう。

――『アベンジャーズ』とかの。

 阿部 それに対抗してこっちは「アーベル・ノベルティック・ユニバース」でいくぞ、と最近思いつきました(笑)。

――アーベルって「阿部」のアーベル? MCUに対してANUになるわけだ(笑)。

 阿部    芥川賞をもらった『グランド・フィナーレ』を書いている二〇〇四年ぐらいの時点で、『ピストルズ』に接続させるつもりであれを書いていました。その頃は、同時期にいろんな物語を考えているんです。『ニッポニアニッポン』も『グランド・フィナーレ』とつながったり。なので『ミステリアスセッティング』もその延長で書いている部分が当然ありました。実は同じ時期にもう一つ考えていた物語で、発表できなかったものがあるんです。スピンオフとして。

――以前のインタビューで話されていましたね。菖蒲みずきの大学時代の話でしたっけ。

 阿部 それをあの時に書いておけば、さらにユニバースに広がりが出て、『キャプテン・アーベル』みたいなものになったのかなと思うんですけどね(笑)。いずれにしても、二〇〇四~〇五年のあたりでユニバースの構想はかなり固まっていた。

――だからこそスーツケース爆弾のことをいろいろ調べて、『ミステリアスセッティング』でそれを爆発させておいたということですか。いや、まったく驚きです。

 

>>#2へつづく


阿部和重(あべかずしげ)
一九六八年生まれ。山形県出身。作家。九四年に「アメリカの夜」で第三七回群像新人文学賞を受賞しデビュー。九九年、『無情の世界』で第二一回野間文芸新人賞、二〇〇四年、『シンセミア』で第一五回伊藤整文学賞、第五八回毎日出版文化賞、〇五年、「グランド・フィナーレ」で第一三二回芥川賞、一〇年、『ピストルズ』で第四六回谷崎潤一郎賞を受賞。その他の著書に、『インディヴィジュアル・プロジェクション』、『クエーサーと13番目の柱』、『Deluxe Edition』、伊坂幸太郎との合作『キャプテンサンダーボルト』などがある。

佐々木敦(ささきあつし)
一九六四年生まれ。愛知県出身。音楽、文学、映画、演劇などの批評を幅広く手がける。『批評時空間』、『シチュエーションズ』、『アートートロジー』、新刊『この映画を視ているのは誰か?』、『私は小説である』など著書多数。

文學界 10月号

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