ある母親
真弓と初めて会ったのは、2016(平成28)年の秋だった。
私は博多の夜間保育園の事務室を訪ねていた。
大きなトンボ眼鏡のようなサングラスをかけた女性が事務室の扉を開けて入ってきた。
「あら、おかあさん、今日はなんでこんなに遅いと? 仕事は? 石の上にも3ヶ月って言ったやろ? そんな簡単に休んだらいかんて」
職員が時計を見ながらズケズケと遠慮のない言葉を繰り出した。午前10時半を過ぎている。
「まだ辞めてないですってば。今日は休んでいいとって」
女性が、照れたような博多弁でふくれてみせた。
女性は用事があるのかないのか、すぐ退出する様子はない。親戚のおばちゃんと姪のような気楽さでひとしきり職員や園長とおしゃべりすると、ニコニコしながら出て行った。後ろ姿を見送った職員が、
「今日は調子よさそうでしたね」
とホッとした顔をした。
それが真弓だった。
真弓は4歳の息子をひとりで育てているという。中洲のホステスから保険会社の営業に仕事を替えて2ヶ月だった。
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