『真夜中の陽だまり』(三宅玲子 著)

 親が安心して働くためには子どもを預ける保育園と信頼関係を築くことは欠かせないが、これは案外と簡単ではない。しかし、真弓はいかにもふたりを信頼しきっている。うらやましいほど良好な関係に見えた。ところが、

「あのおかあさんだって、最初は大変だったんですよ」

 女性の園長が言った。

「信頼関係どころか、はじめの数ヶ月はろくに登園もしなかったですし、担任の保育士とのやりとりもケンカ腰でした」

 保育士の間では「要注意保護者」になっていたという。

「でもね、あるときから変わったんですよ」

 園長が笑い、

「あのおかあさんなら、きっといろんなこと、話してくれると思いますよ」

 と請け合った。

 夜、お迎えにやってきた本人を捕まえて、改めて話を聞かせてほしいと頼んでみたところ、園長の予想通り、真弓はニコニコと即座にOKしてくれた。

「もちろん、わたしにできることならなんでも。もうね、保育園はね、家族みたいなものやけん」

 後日、真弓と私は保育園の近くにあるもつ鍋屋で向かい合った。濃い緑のニラがこんもりと盛られた鍋越しにビールで乾杯すると、真弓は話し始めた。