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“要注意保護者”のシングルマザーを変えた、夜間保育園理事長のひと言

“要注意保護者”のシングルマザーを変えた、夜間保育園理事長のひと言

文:三宅 玲子


ジャンル : #ノンフィクション

『真夜中の陽だまり』(三宅玲子 著)

 夜間保育園に入園する前、真弓は福岡市の郊外にある母子寮に暮らしていた。福岡には地縁も血縁もない。九州のある町で裕福な家庭の3姉妹の末っ子として生まれた。幼い頃に両親が離婚。母親は姉妹を連れて再婚したが、経済的に安定せず、未就学だった真弓は十分な食事を与えられない時期があった。次々に6人の異父弟妹が生まれ、小学校低学年から母親とともに新聞配達をして家計を支えた。中学では剣道部に入りたかったが、防具代が高いために我慢した。中卒での就職を願う母親を制して私立の女子校の学費を払ったのは、別れた実父だったという。21歳で年下の男性と結婚し、2人の子どもを産むが、離婚し、子どもを置いて家を出た。実家には帰る場所がなく、自家用車に寝泊まりした。見かねて実父が数日間、後妻と暮らす家に泊まらせてくれた。町のスナックで働いているとき、数人で来店した関西からの出張者のなかの最年少の男性にアプローチされた。児童養護施設で育ち、家庭のぬくもりに飢えている彼と自身の生い立ちが重なり、彼を支えたいと、再婚して関西で一緒に暮らし始めた。子どもが生まれ、ふたりで唐揚げ屋を開く開店資金を貯めていたところに、彼が現場作業の事故で怪我をし、働かなくなる。そのうちに暴力をふるうようになった。それで彼女は再び離婚し、子どもを連れて九州に戻ったのだった。

 だが、縁もゆかりもない福岡で、放り込まれるようにして暮らし始めた母子寮は決して居心地のいい場所ではなかった。

 家賃がかからず、安全は担保され、保育園もあるが、彼女の言い分では、求職活動のために保育園に預けようとしたらイヤな顔をされたとか、お迎えの時間に遅れると厳しく注意をされるとか、赤ちゃんを育てながらの自立に向けて支えられている実感はなかった。職員から見下されているように感じたこともあったと彼女は打ち明けた。同じような境遇の女性が集まる場所では女同士の諍いもあった。

 ここにいても仕事が見つけられないと福岡市の保育課に訴えたところ、夜間保育園があると紹介された。思いつめた真弓は電話に出た夜間保育園の男性に事情を説明しながら泣きじゃくった。緊急扱いで入園が認められ、母子寮を出たのは、ややあってのことである。

単行本
真夜中の陽だまり
ルポ・夜間保育園
三宅玲子

定価:1,650円(税込)発売日:2019年09月09日

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