『真夜中の陽だまり』(三宅玲子 著)

 山縣氏は、このケースが若年出産やステップファミリーであることは、児童虐待のリスク要因にあてはまると説明したが、同時にこう制した。

「ただし、検証するとそういう家庭が多く見られるというだけです。『若年出産だから』『経済的に不安定だから』虐待するのではありません。そこは間違えないでほしい」

 そして、山縣氏はこう続けた。

 レジリエンスという言葉を聞いたことがありますか?

「弾力という意味です。私たち社会福祉の分野では、逆境の中でも生き延びる力というイメージで使います。レジリエンスを考えるとき、リスク要因とプロテクト要因(保護要因)、この2つの関係でとらえるのです。たとえば、若年出産でシングルマザーで経済的に不安定な仕事についている人は、リスクを数値化すればかなり高くなります。でも、回りにいい友人がいるとか、両親がサポートしてくれるとか、保育士と良好な関係が築けているといったプロテクト要因がリスク要因を上回っていれば、レジリエンスは高まります。社会福祉関係者はリスクで語りがちですが、プロテクト要因が実は大事なんです。その人がどれだけ自分を支えるものを持っているか、世の中がそれを準備できているか。虐待防止施策はそうした見方で構築していくのがいいのではないか。私はそう思っています」

 プロテクト要因が大事──。

 山縣氏のこの言葉に深くうなずくような思いで私は耳を傾けた。私が博多の夜間保育園で知り合った母親たちは、不安定で先が見えないなか、子どもとの暮らしをなんとか踏み堪え、一日一日をもがきながら生きていた。彼女たちにとって、夜間保育園はまさにプロテクト要因としてあった。私はそこで知り合った保護者のひとり、真弓の人懐っこい笑顔を思い浮かべた。