『池波正太郎の美食を歩く』(二〇一〇年五月、祥伝社)より転載
近藤の“天ぷら”を味わい、対談は始まった――
逢坂 以前にもテレビの番組でご一緒して、ずいぶん勉強させてもらいましたが、今日は天ぷらをいただきながら、いろいろ観察することができました。それにしても、油をこまめに換えるんですね。一日一回くらいの交換だと思ってたら、それどころじゃない。
近藤 一日一回だと、うち、ずいぶん儲かっちゃう(笑)。天ぷらは衣と素材のバランス。酸化した古い油だと、素材の味が消されちゃうんです。素材の味を活かすには、いい油でないと。
逢坂 町場の天丼屋さんとかだったら、こんなにまめに換えません。
近藤 山の上ホテルに勤めていた僕がなぜ、独立してこの店を開きたかったかというと、素材の味をもっと追求したかったからです。だから妥協できない。独立するときには池波先生にも、相談にのっていただいたけど、僕が妥協したり、儲けに走ったら、先生に顔向けできないですから。
逢坂 今日、拝見しながら、近藤さんも仕事をそろそろ若いのに任せたっていいんじゃないかと思いましたが、全部自分でやっていらっしゃるのを見ると、やっぱり仕事がお好きなんですね。
近藤 僕が仕事をやめるときは、きっと、この仕事に飽きたときです。でも、まだ、揚げたい素材がいろいろありますからね。
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