逢坂 どうりでさっき食べたの、すごく瑞々(みずみず)しくて。香りもよかった。でも、素材に衣をつけて油の中に入れるとき、無造作に放り込んでいるようにみえましたが……。
近藤 それが近藤流。あえてピシャン、ピシャンって放り込むことで、余分な衣を取っている。だから天ぷらがドテッとしないでしょう。うちの天ぷらはたくさん食べても胸焼けしません。
逢坂 僕もただ放り投げているんじゃないとは思ったけど、すべてにちゃんと理由があるんだね。カウンターは満席なのに、みんなの前に天ぷらが出てくるタイミングも絶妙。
近藤 食べるペースは早い人も遅い人もいる。そういうのを全部頭に入れながら揚げていく。
逢坂 あのさつま芋の天ぷらなんかは、いろいろ試行錯誤して作り上げたものなんでしょうね。
近藤 揚がったときの状態は全部頭の中で考える。試しに揚げたり、刺したりしなくてもいい。こうやると、こうなるって、イメージどおりのものができます。
逢坂 池波さんの小説みたいですね。池波さんはだいたい、筋考えないで書き出す。それで話がちゃんとできちゃう。
近藤 そして先生の小説には必ず食べ物が出てくる。『鬼平犯科帳』『藤枝梅安』『剣客商売』……。
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