現場の管理職にこそ労務管理を学んでほしい
Q 会社の思惑と正義との板挟み――『ひよっこ社労士のヒナコ』には、ヒナコが会社のためを思って行動したのに、受け入れられなかった話がありました。会社側の思惑とご自身の正義感の板挟みで悩むことはありますか。
佐藤 ダメなものはダメと言っていくしか、企業の健全な発展はないと思っています。それがもとで契約を切られてしまったら、しょうがないです。 会社は人が集まってできている組織体で、売上をつくるのも人なので、適材適所で人を上手に活用していく。人を大事にしなければならないと考えています。 また、社労士は弁護士とは違って、中立でなければならないんです。職業倫理を持つことはとても大切なことだと考えています。
Q 管理職が気をつけることは? ――昔は正社員ばかりでしたが、いまは派遣社員や業務委託契約やフリーランスの人も職場にいます。法律的な見地から、管理職になったら、気をつけるべきことはありますか。
佐藤 管理職になるというのは、使用者側になるということなんです。会社側の立場になったと認識できない人は管理職に向いていません。管理職になるときの研修では、リーダーシップやコミュニケーションについてや、ハラスメントなどの話はあっても、労務管理全般についてはほとんどされていません。 現場で初動対応を誤って、ボタンの掛け違いが大きなトラブルになり、それが火だるまになって人事や経営陣に丸投げされることは、よくあります。
痛ましい大手広告代理店の事件でも、最初に書類送検されたのは、所属長でした。 管理職が初動対応をしっかりして行っておけば、トラブルを防ぐことができます。管理職の方に、労務管理をぜひ学んでいただきたいので、先日、『管理職になるとき これだけは知っておきたい労務管理』(アニモ出版)を書きました。
Q 飲み会も労働時間? ――私の働いている会社は、取引先との飲み会の費用は出しますが、業務時間に入っていません。しかし、同業の他社では会食も業務時間としています。飲み会を業務時間に入れるよう、会社に交渉することはできますか。
佐藤 結論から言いますと、難しいと思います。 いま国会でも議論されるなど大きな問題になっていますが、実は労働時間は法律で定義されていません。
判例(三菱重工業長崎造船所事件)によれば、労働時間とは使用者の指揮命令下におかれた時間とされています。 「この飲み会にいきなさい」と上司に言われているなら、交渉の余地はありますが、そうでないのであれば難しいのではないでしょうか。休日のゴルフもそうです。仕事の関係で嫌々行っているのかもしれませんが、労働時間にはあたらないと解されています。
また、意外なところでは、健康診断の受診時間や、出張した時の新幹線や飛行機などの移動時間は、労働時間ではありません。警備員が、夜ひとりで寝ている仮眠時間は、労働時間。何かあったら、対応しなければならないので、労働時間なんです。
Q 会社の携帯を持ち帰ると労働時間になる?――会社用の携帯電話を持ち帰ることになっていて、いつでも連絡がとれるようにしています。それも労働時間になりますか?
佐藤 管理監督者なら、時間外でも休日でも、というのは問題になりませんが、一般の社員にもたせるのはちょっと危険かもしれません。県立奈良病院事件という最高裁まで争った判例があります。産婦人科医がポケベルを持たされていて、産気づいた患者さんがいたら、ベルで呼び出されて駆けつけることになっていて、「休んでいる暇がない」と訴えたんです。この判例で、呼び出されたら、労働時間にカウントされますが、ポケベルを持ち帰っているからといって、すべて労働時間ではないということになっています。
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