- 2019.11.05
- インタビュー・対談
〈座談会 新人賞必勝法!〉オール讀物新人賞受賞までに学んだこと 根本昌夫×佐々木愛×嶋津輝
「オール讀物」編集部
『スナック墓場』『プルースト効果の実験と結果』で単行本デビュー
小説は突然上手くなる
根本 佐々木さんが初めて書いた小説は、何ですか。
佐々木 「プルースト効果の実験と結果」です。でも、今回収録されたものとは大分違う、今思えば下書きのようなもので、とりあえず最後まで書けた、というようなものでした。
根本 作家のデビュー作っておもしろくて、最初に「これを書こう」と思ったものが、なかなか書けなくて、それをちょっと置いておいて、違うものを書いて応募したら新人賞を受賞した、という人は結構いると思います。書いたのはいつですか。
佐々木 受賞する2年くらい前なので、2014年頃です。
根本 じゃあ、学生時代に書いたりはしてなかった?
佐々木 子どもの頃から書きたいという気持ちはあったのですが、実際に書けたのは社会人になってからです。テレビ局のウェブサイトの編集部で、エンタメ系取材記事を書いていたのですが、私は話すのがとても苦手で、人と話をする機会が多いこの仕事を続けていくことが想像出来なくて。話す以外の技を身に付けなければという危機感が増し、やっと書くようになりました。小川洋子さんの作品にずっと支えられながら過ごしてきたので、小川さんのデビューに立ち会われた根本先生の教室に入りました。
根本 私の教室は、いわゆる小説の手ほどきはやらないんです。もちろん下手な人もいるわけですが、突然上手くなったりすることがある。その突然がいつくるかはわからなくて、2ヵ月後かもしれないし、10年後かもしれない。その面白さはありますね。
嶋津 あと、教室に入ってから、小説をたくさん読むようになりました。
根本 講座では、生徒が提出した作品を読むほかに、作家の小説も読んでもらって合評するんです。テキストとして使っているのは、新潮文庫創刊以来の100年間の中から選んだ短編が収録されているアンソロジー「日本文学100年の名作」。全10巻で、時代順に収録されているのを、第10巻から遡るようにして使っています。これなら、純文学もエンターテインメントも入っているし、いろんな作家の作品が読めるので、生徒の反応もいいんですね。私は、読むことと書くことは同じで、小説を書くためには小説を読まなければと、ずっと言い続けています。
嶋津 それまで読んだことのなかった作家の作品に触れられたのは、よかったです。
佐々木 私も実際、小説を書き始めてからのほうが多く読んでいます。
根本 いま、法政大学の創作のゼミで教えていますが、そういうゼミに入ってくる学生でも、小説を読んでいないんです。読ませれば、乾いた砂に水が染み込むように入っていくので、まずは読むことから始めます。
嶋津 執筆中も、読んでいるものに触発されることは多いですね。たとえば、『スナック墓場』に収録されている「一等賞」に、アルコール依存症の発作が出る「アラオ」という人が出てきますが、あれは、中島らもさんの本ばかり読んでいた時期に書いた短篇です。読んでいるものに影響を受けてしまいがちなので、なるべく引っ張られないようには気をつけています。
(座談会の続きは、オール讀物2019年11月号に掲載されています)
ねもとまさお 1953年福島県生まれ。「海燕」「野性時代」元編集長。吉本ばなな、小川洋子、角田光代らのデビューに立ち会う。各所で小説講座を担当する。
ささきあい 1986年秋田県生まれ。青山学院大学文学部卒。2016年「ひどい句点」でオール讀物新人賞受賞。『プルースト効果の実験と結果』が初の単行本となる。
しまづてる 1969年東京都生まれ。日本大学法学部卒。2016年「姉といもうと」でオール讀物新人賞を受賞。『スナック墓場』が初の単行本となる。