すごい選手だったんだぜ、と同僚のウェインが語ってくれたことがある。イングランド代表でワールドカップに出て、チームをベスト4に導いた点取り屋だったんだ、それにイングランド国内で五回、所属クラブを優勝させたこともある、トップリーグでだぜ、とんでもないことだ。ウェインはあたかも自分が同時代を生きていたかのように熱弁した。
モーガンに関心がないわけではないし、彼の輝かしい記録を聞くと、そのような人物に指導を受けている現状を幸運に思ったりもする。ただそれよりも、今目の前で彼がのんびりとパス交換につきあってくれているということの方が重要だった。的確な戦術を用い、チームのよい雰囲気を保ち、リーグ戦でもトップまで僅差の六位につけている。その事実だけで、私は彼に十分な敬意を払うことができた。
ミドルシュートの精度が上がればおまえはもっといいフォワードになるぞというモーガンの言に付き合うかたちで、私はシュート練習を始めた。無人のゴールにただ蹴り込むのではなく、立っているモーガンをドリブルでかわしてからミドルを打つという練習を何度も重ねた。ドリブルで中に切り込み、相手をかわして素早くゴールの隅にシュートを放つ。それを高い精度でこなすことができれば、まちがいなくゴール数は増えるだろう。私の理想を見ぬいているかのようにモーガンはにやつき、無言で立ち続けていた。
もう陽が暮れるな、二十本ほどのシュートを放ったところでモーガンがぼそりと言った。
そろそろ引き上げよう。後半戦が始まろうとしている時に怪我でもされたんじゃたまらん。
私はその台詞にうなずき、使っていたボールを片付けてからシャワー室に向かった。
また明日な、と背後から声をかけられた。つきあってくれた礼を言いたかったが、どこか気恥ずかしく、ああまた明日とだけ答えた。