特集

夜明けまでの夜

文: 保坂和志

文學界12月号

「文學界 12月号」(文藝春秋 編)

 私よりずいぶん若い、私にもし子どもがいたとしたらその子どもよりもずっと若い友達が拾った子猫が二匹、拾われてからひと晩も生きられずに死んだ、まだ目があいてなかった、生まれて一週間経っていなかっただろう、きっと三日とか四日とかそんなものだっただろう、くわしい状況はわからない、拾われたときには体が冷えていた、その友達と、もう一人、こっちは四十くらいの男だ、その二人で子猫をてのひらで温めた。

 子猫はいったんは体が温まり、もぞもぞ動くようになった、うすめたミルクも少し飲んだ、しかしちょっと安心したところで子猫は二匹とも冷たくなった、二人はそれから何時間もてのひらで温めつづけたがもう子猫は動かなかった、子猫は二人のてのひらの温もりより暖かくはならなかった、二人は早朝、多摩川の川原の、人に掘り返されないところを捜して埋めてきた、子猫は名前もないまま土に還っていった、あるいは天に還った。

 ペチャもそれとちかい状態だった、まだ私とつきあい出して一年半、いまは妻の、その頃はカノジョだった妻のマンションの前の植え込みに捨てられていた、カノジョだった妻はすぐに猫を飼っている親友のところにバスケットに入れて電車を乗り継いで連れて行った、ペチャはそれで助かって、それから二十二年四ヵ月生きた。うちで飼った猫は、ジジも花ちゃんも、出会ったそのときに放置していたら助からなかった状態だった、うちの猫たちはそこで助かったが、あのときに助からなかったら……ということはしょっちゅう考えた、ゆうべ助からずに名前もないまま死んだ子猫と生死が分かれたそれは並行していると感じた。

文學界 12月号

2019年12月号 / 11月7日発売
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