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「怒りの刃は常に内向きです」──壇蜜初の小説集刊行記念インタビュー

「怒りの刃は常に内向きです」──壇蜜初の小説集刊行記念インタビュー

聞き手・構成:鵜飼 哲夫

文學界12月号 特集 ことばは今どこにあるか?

出典 : #文學界
ジャンル : #小説

――『人間失格』のような生き方はどうでした?

 壇蜜 男の人だからまかり通ったのかな。これが男女逆だったら、たぶんもっと凄惨なことになっただろうなって。最近では、宮本輝さんの『流転の海』シリーズを読みました。ただ、あの作品は「どんな小説なの?」って聞かれるのが一番難しくて、説明するとなると、「終電大丈夫か?」って聞くぐらい長くなりそうで(笑)。

 好きな漫画を読むことも含めて、読むのは時間がすごくかかって、自分の時間が止まっているように感じるけれども、気がついたら精神的に何歩も前に踏み出せるようになっている。過ぎていく時間と、「読んだ、知った、よかった」という満足度のギャップが面白いです。

――私が壇蜜さんのこの小説集で注目したのは、眼鏡の粋な使い方です。第一話で亡くなったユウジは眼鏡をかけ、弟のタクミ君はダテ眼鏡で眼鏡屋でアルバイトしていて、最後は、その店に、未亡人のイオリが、夫であるユウジの遺品の眼鏡を形見分けに持ってやってくる。なぜ、眼鏡だったのでしょう。

 壇蜜 自分がかけているのが一番大きいですかね。普段、家に帰ると眼鏡をかけています。高校時代からどんどん悪くなって0.02です。

 私は目が悪くてよかったなと思うことが一個だけあって。裸眼にすれば見たくないものを見ないで済む。見ようとしても無理だから。無理だからと思って諦められるというのは、人間が生きるうえですごく助かります。とりわけ大人になって、妥協しなきゃいけないとか、譲らなきゃいけないという場面で、見なくてもいいものを見ないで済むっていうのはすごく大きい。眼鏡を外すと、いくら周りが騒がしくても、「私、別に必要とされてないし。見えないから、私ここで何かしなくてもいいし」って思えます。

文學界 12月号

2019年12月号 / 11月7日発売
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