- 2019.11.22
- 書評
ラストに待ち受ける大いなる感動。だが、謎が解かれて終わりではない。
文:末國善己 (文芸評論家)
『壁の男』(貫井徳郎 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
栃木県北東部にある高羅町が、奇妙な絵で覆い尽くされつつあると話題になった。リヨンにはアーティスト集団シテクレアシオンが手掛けた騙し絵が随所にあり、アーティストの競作の場になっているロンドンのリークストリートトンネル、アーティストHAAS&HAHNがリオデジャネイロのスラム街を活性化させるため街全体をキャンバスに見立てて描いた絵など、ストリートアートが注目を集める地域は少なくない。ただ物語の舞台となる高羅町が変わっているのは、描かれている絵が芸術性とはほど遠く、キリンは黄色、熊は黒で塗られ、人間の目は丸、口は弧を描いたカーブ、男女の区別は髪の長さくらいという、まるで保育園児が好き勝手に絵の具と絵筆を使ったかのような作品ばかりということなのだ。この稚拙な絵はSNSによって広まり、テレビの情報番組が取り上げ、いまや観光客が訪れるまでになっていた。
技術的には高いレベルにはないが、町全体を覆うことで異様な迫力を持つようになった絵に、ノンフィクションライターの「私」が興味を持つ。絵を描いているのは誰か? なぜ絵を描いているのか? 拙い絵を描くことに近隣住民から反対はなかったのか? これらの謎を解明して本にまとめたいと考えた「私」は、高羅町に向かう。
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