昨日の午後、近所にある科学館の外階段の上に、見覚えのある太ももを見つけて賢児は、あ、と思った。
蚊(か)に刺されたあとがある。夕べ、美空がかきむしっていたところだ。見て見て、赤いところがハート形になった、と無理矢理見せられた。
その太ももが今、外階段の上で制服のズボンをはいた足と絡(から)みあっている。
「賢児のお姉さんだよね?」
隣の譲が言った。賢児はうなずいた。
「新しい彼氏。須山(すやま)だと思う」
もう一度、外階段をあおぐ。館内からは死角になっているそこには、苔(こけ)むしたザリガニの水槽が並んでいて、あいだから姉の真新しいコンバースが見えた。
「須山って聞いたことあるな…… 」譲がつぶやく。
中学進学を来年に控えた教室では、地元の公立中学の噂が絶えない。上級生とすれ違うだけでカツアゲされるとか、挨拶をしないとひどい目に遭うとか。その話のあちこちに須山という名前は出てきた。美空より一学年上の中学三年生だ。アイドルみたいな奥二重の目をしている。いかにも美空が好きそうな顔だ。
こちらもおすすめ
プレゼント
-
『亡霊の烏』阿部智里・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2025/03/28~2025/04/04 賞品 『亡霊の烏』阿部智里・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。