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【試し読み】朱野帰子『科学オタがマイナスイオンの部署に異動しました』

ジャンル : #エンタメ・ミステリ

科学オタがマイナスイオンの部署に異動しました

朱野帰子

科学オタがマイナスイオンの部署に異動しました

朱野帰子

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『科学オタがマイナスイオンの部署に異動しました』(朱野帰子 著)

 昨日の午後、近所にある科学館の外階段の上に、見覚えのある太ももを見つけて賢児は、あ、と思った。

 蚊(か)に刺されたあとがある。夕べ、美空がかきむしっていたところだ。見て見て、赤いところがハート形になった、と無理矢理見せられた。

 その太ももが今、外階段の上で制服のズボンをはいた足と絡(から)みあっている。

「賢児のお姉さんだよね?」

 隣の譲が言った。賢児はうなずいた。

「新しい彼氏。須山(すやま)だと思う」

 もう一度、外階段をあおぐ。館内からは死角になっているそこには、苔(こけ)むしたザリガニの水槽が並んでいて、あいだから姉の真新しいコンバースが見えた。

「須山って聞いたことあるな…… 」譲がつぶやく。

 中学進学を来年に控えた教室では、地元の公立中学の噂が絶えない。上級生とすれ違うだけでカツアゲされるとか、挨拶をしないとひどい目に遭うとか。その話のあちこちに須山という名前は出てきた。美空より一学年上の中学三年生だ。アイドルみたいな奥二重の目をしている。いかにも美空が好きそうな顔だ。

文春文庫
科学オタがマイナスイオンの部署に異動しました
朱野帰子

定価:847円(税込)発売日:2019年11月07日

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