だからって、よりによってこの科学館で。
「行こうぜ」と小声で譲をうながしたとき、
「なあ、いいだろ」と須山が言うのが聞こえた。「今度会ったときはやらせろよ」
「えー」と美空がか細い声で答える。「でも、子供ができちゃったら困るし」
どくんと心臓が変な風に鳴る。
「だいじょうぶだって。安全日とかあるし。おれ、そういうのよくわかってるから」
犬のようにはあはあと荒い息を吐きながら、須山は言っている。
科学館から出ると、賢児と譲は無口になった。厚紙のように固い葉がびっしり生えている生け垣の前をとぼとぼ歩く。譲がわざと明るい声で言った。
「アイスでも食う?」
「いや、いい」
あんな馬鹿、ほっとけばいい。さっきから何度も心でつぶやいている。美空がなにをやろうとしているのか、だいたい予想がつく。そういうシーンがはじまると母はあわててテレビを消す。でも小学六年生はそこまで子供じゃない。
「図書館行こうか。調べてみよう」譲が言った。
「なにを」
「人間がどうやって生まれるのか」譲は額(ひたい)にビーズのような汗をつけている。「メダカとかカエルの生殖については科学館で教えてもらったけどさ、人間についてはなんとなくしか知らないだろ? 勉強してみてもいいかなって思って」
「…… うん」
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