そうだ。心がもやもやするのは、それがどんなことなのか具体的に知らないからだ。だったら調べたらいい。それが賢児と譲のいつものやりかただった。
区立図書館に着くと、ふたりは中学生向けの保健体育の教科書を読んでみた。
「みなさんの体は大人にむけて準備をはじめています」
という文章ではじまる薄い冊子には、女子には月経が、男子には夢精がはじまることや、体に第二次性徴と呼ばれる変化が起きることしか書いていなかった。
「これじゃなにもわからないね」と、譲がすぐに戻す。
かといって医学書では専門的すぎる。しばらく書架をあさったふたりは、妊娠したい女性向けの本を見つけて、「これだ」と閲覧机に移動した。科学本に載っているカエルの繁殖方法と同じくらいくわしく人間の繁殖方法が書いてある。卵子が月に一度しか子宮のなかに出てこないこと。精子の寿命が数日しかないこと。
「妊娠ってけっこう難しいんだな。カエルより難しくないか」
賢児はほっとした。姉はまだ子供なんだ。さっき姉が履いていたコンバースは十四歳の誕生日に父に泣いてねだって買ってもらったものだ。まだ子供を産むべきじゃない。
「映像とかないかな。見てみようぜ」
譲が言い、ふたりは視聴覚コーナーに移動した。ビデオがずらりと並んだ棚から、譲が自然科学のドキュメンタリーを抜きだし、「これだ」と渡してくる。
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