卒業生たちの母校愛
麻布出身の早稲田大学教育学部四年生に取材を試みた際、彼は麻布のあれこれを思い出して語ってくれたあと、ため息交じりにこう言った。
「麻布の学校生活……。人生であんな楽しかったことも逆につらかったこともない。ぼくは麻布で人生を終えるべきだったといまだに思っています。だから、いまは『余生』を過ごしているわけです(笑)。それこそ三島由紀夫が『本当は戦中で死ぬべきだったのに、生きてしまっている』、そんなふうに語ったことがあるみたいですが、同じメンタリティですね」
何とも大仰な言い回しに感じられることだろう。でも、彼はいたって真面目にそう語るのだ。そして、彼はこうも言い添えた。
「麻布で濃厚な友人関係を築いてしまったので、大学入学後はなかなか親しくできる人を見つけられませんでした。それでも、大学の友人が二人できました。ぼくは麻布の友人たちと同じくらい大事にしたい。同じように、これからぼくがある女性と出会って結婚するんだったら、相手を麻布と同じくらい愛したい」
麻布という学校、麻布の友人、麻布時代の思い出が、彼の価値判断の大切な尺度になっていることがわかる。
開成出身の私立大学准教授に取材をした折、彼は開成に入学した頃を思い出してこんなことを口にした。
「開成に入るまではお山の大将的な意識があったんです。自分より勉強できるヤツはいないだろうと。でも、開成に入ったらただ単に『勉強ができる』というより『こんなに頭のいいヤツがゴロゴロしているんだ』って衝撃を受けました。開成でわたしが得た経験ではこれが一番かもしれません。東大法学部に入ったときも、東大の大学院に進んだときも、開成に入ったときのような衝撃は全く感じられなかったですから」
武蔵出身の公立大学准教授は、母校を語る際にちょっと過激とも思えることばを発した。
「これから先も武蔵のいいところはそのまま残してほしいです。延命させるために学校の教育方針を変えるならば、最終的には衰退して潰れてしまっても構わないと思う」
どうだろうか。彼らのことばの一端に触れただけでも、男子御三家卒業生たちの母校愛の強さがひしひしと伝わってくるだろう。