『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』 (矢野耕平 著)

 国内屈指の名門女子中学校として君臨する桜蔭、女子学院(JG)、雙葉の3校。その入試問題とはどのようなものか。

 各校の傾向を分析し、合否を分けた注目の問題に解答例をつけて公開する。

桜蔭中学校

2015年度入試問題分析
2015年度入試問題
科目別問題の傾向と一部解答例

女子学院中学校

2015年度入試問題分析
2015年度入試問題
科目別問題の傾向と一部解答例

雙葉中学校

2015年度入試問題分析
2015年度入試問題
科目別問題の傾向と一部解答例

 

矢野耕平(やのこうへい)

矢野耕平

1973年東京生まれ。大手塾に十数年勤めたのちに、中学受験専門塾「スタジオキャンパス」を設立し、代表に就任。東京・自由が丘と三田に展開している。学童保育施設「ABI-STA」特別顧問も務める。大手塾時代は女子学院(JG)受験に特化したクラスの責任者を務め、7年間で約230名のJG合格者を輩出。とくに2006年度のJG入試では80名受験中55名合格という圧倒的な実績を記録した。著書に『カリスマ講師がホンネで語る 中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『iPadで教育が変わる』(マイコミ新書)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)がある。

関連記事

学力の桜蔭、自由の女子学院、お嬢様の雙葉……「女子御三家」の秘密にせまる(文春オンライン)


桜蔭中学校

2015年度入試問題分析

 女子最難関校の入試問題は、算数・国語で最高水準の問題がずらりと並ぶ。論理的思考力とともに、大胆な「力技」も求められる。理科・社会は高度な知識が若干試されるものの、桜蔭受験生にとっては「当然のように」高得点を積まねばならない。難解な問題に出会った際に思わずワクワクするような性格でなければ乗り切ることはできないハードな入試問題である。難関校では珍しく、桜蔭は自校作成の模範解答を公表しているので、それを見ると桜蔭が求める「計算式」「記述」などが見えてくる。


2015年度入試問題

算数(制限時間:50分/配点:100点)[PDF:266KB]
理科(制限時間:30分/配点:60点)[PDF:543KB]
社会(制限時間:30分/配点:60点)[PDF:546KB]


科目別問題の傾向と一部解答例

◆算数(制限時間:50分/配点:100点)

 小問集合は計算問題2問、数の性質2問。大問2は正三角形をうずまき状にならべ、その図形の周囲の長さを求め、調べながら規則を見つけなければならない。その場での判断能力の高さが求められる。大問4の円柱の問題は計算量が多くなり、正確な作業が求められる。桜蔭の合格点に達するためには複雑な解答作業、面倒くさい数値を扱った複雑な計算など、厄介な作業をそつなくこなすたくましい姿勢を身に纏っていなければならない。

○合否を分けた問題

【大問3(2)】

・解説

「10個をこえると、こえた分が5%引き」という条件を気にせず取り組もう。ケーキ○個、プリン△個とすると300×○+120×△=9000です。60でわると5×○+2×△=150となり、(○,△)=(0,75)が算出される。プリン5個とケーキ2個が同じ金額であることから調べることが必要。(○,△)=(10,50)以降はケーキが285円なので、プリン19個とケーキ8個が同じ金額。さらに細かく調べていかなければならない。

 内容を理解した上で立式し、煩雑な作業も臆することなく粘り強く解き進めていく骨太な学力が求められる。このような難問に対して『やってやろうじゃないか』というチャレンジ精神で取り組んでいくような負けず嫌いな性格は桜蔭向きといえる。

・解答

チーズケーキ(個) 2 4 6 8 10 18 26
プリン(個) 70 65 60 55 50 31 12


◆理科(制限時間:30分/配点:60点)

 昨年度は4題だった大問数は5題になった。大問2は実験結果や説明文を丁寧に整理して設問に答えていく必要がある。また、記述問題(60字以内)も見られ、例年以上に差がついたと考えられる。本校の理科は、実験結果を基に思考していく問題が多く出題される。また、大問5の化学分野の中和計算ではデータ処理能力の高さが求められる。桜蔭受験生は、与えられた条件や結果を論理的に考える習慣を身に付け、本質を見抜く力をつける学習をおこない、時事的な話題に平生から目を向けることを意識しなければならない。

○合否を分けた問題

【大問2 問4】

・解説

 コナガの幼虫の生存率を高める条件を読み取る問題。コナガの天敵であるコマユバチは、キャベツがコナガの幼虫に食べられたときに出すにおい物質で集まる。問題文より(C)に最もコマユバチが集まるので、イは生存率が高まることが分かる。また、コナガの幼虫の数によらず集まるコマユバチの数は同じなので、1匹だけコナガの幼虫がついているキャベツよりたくさんコナガの幼虫がついているものの方が寄生される確率は下がる。

 与えられた情報を整理し分析をした上で結果を推測するという理科の本質が要求されている問題。桜蔭の理科は、知識を固めただけでは太刀打ちできない。日頃から、よく考えて物事を推測する学習が求められる。

・解答

イ→ウ→ア


◆社会(制限時間:30分/配点:60点)

 昨年度と同様に解答の判断に困るであろう記号選択問題が目立つが、それでも合格者平均点は約7割と考えられる。問題のほとんどは地理・歴史分野で、公民分野は2割程度。とりわけ地理分野では骨のある問題が多いように感じられる。記述問題については、2段階の思考が求められており、レベルが高い。JG・雙葉と比較すると、一番解きやすそうに見えるが、3分野の基礎学力を確実に定着させていなければ勝負にならない。その上で、周囲のさまざまなところに転がっている「社会常識」や細かい知識を幅広く積極的に身につけようとする貪欲な学習姿勢が求められる。

○合否を分けた問題

【大問1・問5】

・解説

 無形文化遺産「和食」から派生した時事問題。日常生活に存在する事象を、生活者の視点で捉えたい。桜蔭は、外食・小売店などに食生活を委ねる家庭の増加、あるいはしょう油ベースの調味料の多様化に思い至るような受験生を求めている。

・解答

 外食する家庭が増加したから。
 スーパーマーケットなどの小売店でお惣菜を買う家庭が増加したから。
 

◆国語(制限時間:50分/配点:100点) ※問題は割愛しました

 大問1は、30人近くの著者が学びについて語った『じぶんの学びの見つけ方』に所収されている一篇。問1~問4はすべて記述問題。学校側の模範解答をみると、幾つかの文に分け、丁寧にそれらをつないでいく作業が求められる。大問2は木内昇『櫛挽道守』より。数々の文学賞を受賞した名作品。古い時代設定の物語文で読みづらさを感じた受験生が多かっただろう。「200字記述」をはじめ、こちらも手強い記述問題が並んでいる。桜蔭が公表した模範解答を見ると、50分で相当な分量の記述が求められていることが分かる。なお、模範解答による総記述字数(漢字や抜き出し、記号を除く)は実に1,163字(!)。


女子学院中学校

2015年度入試問題分析

 JGは4教科均等配点という比較的珍しいタイプの学校。言い換えれば、算数・国語・理科・社会を高いレベルでバランス良く学習することが求められる。JG卒業生のことばに「その場その場を上手に切り抜ける要領の良い子ばかり」とあったが、それもこの入試問題を見ると納得できるだろう。苦手科目を放置するのはもってのほか。JGの問題は、論理的な思考力をフル回転させつつ、多くの問題を制限時間内でスピーディーに、適切に解いていかなければならない。


2015年度入試問題

算数(制限時間:40分/配点:100点)[PDF:218KB]
理科(制限時間:40分/配点:100点)[PDF:534KB]
社会(制限時間:40分/配点:100点)[PDF:740KB]


科目別問題の傾向と一部解答例

◆算数(制限時間:40分/配点:100点)

 2015年度は問題中の空欄の数が24個と昨年よりも大幅に減少。全問解くためには、空欄一つあたり100秒で処理することになるので、今年は比較的余裕のある問題量。ただし、立体図形が2題もあり、骨のある問題であった。とりわけ、大問6の水槽の問題は計算が複雑であり、戸惑った受験生も多かったことだろう。

○合否を分けた問題

【大問4】

・解説

 折れ線グラフを読み取るには、曲がり角に注目すること。最初の折れ目は1回目のバスのすれちがい。2つ目はAがG町に到着。3つ目はAがG町を出発。4つ目はBがJ町に到着。5つ目はBがJ町を出発。6つ目は2回目のバスのすれちがい。よって、(3)はすぐに105とわかる。AはBとすれちがうまでに67.5分、その後G町に到着するまで37.5分かかり、AとBの速さの比が9:5となる。あとは地道に計算するのみ。

 JGではよく問われる速さの問題だが、差が付きやすい問題でもある。素早い処理が必要なJGだが、問題を紐解いていく本質的な理解は必要。順を追って手早く片付けていく華麗さが求められる。

・解答

(1)63 (2)35 (3)105 (4)189 (5)217.5


◆理科(制限時間:40分/配点:100点)

 形式は例年通りで、40分で多くの問題を解かなければならない作りである。大問1と2は高校で学習する内容だが、丁寧に文章や図表を読み取れば正解を導くことができる問題である。JGの理科は、大半が選択肢や用語を答える問題ではあるが、化学計算の知識が問われたり、記述問題の出題もあったりする。これらをテンポよく解き進めるためには、深い理解と広い知識が備わっていることが必要。日ごろから本質(原理や原則)を意識した質の高い学習をおこないたい。

○合否を分けた問題

【大問1 2(1)】

・解説

 植物群系と年間降水量・年平均気温の環境条件の関係を表した図をもとにツンドラ・草原・砂漠の区別を問う問題。図の読み取り方を理解できればさほど難しい問題ではない。小学生にとって「ツンドラ」は聞き慣れない用語だったはず。困惑した受験生も多かっただろうが、降水量から草原と砂漠を区別できれば、残ったものをツンドラと判断できたのではないだろうか。知らない用語でも冷静に考えれば正解が導ける。

 こういう、はじめてみる言葉や問題に動揺しないという図太さが必要。初見の問題であっても情報を整理して考えれば解ける問題は多くある。難しくても恐れず解答を導く思い切りのよさが求められている。

・解答

:ウ :ア


◆社会(制限時間:40分/配点:100点)

 2015年度のJG社会は大問5題の構成で、全体のテーマは「離島」。大問1では島に関する地理の問題、大問2は対馬を題材にした地理と歴史の問題、大問3では流刑地・隔離地としての離島を考えさせる問題、大問4は世界の島々を題材にした問題、大問5はポツダム宣言・サンフランシスコ平和条約で扱われた島に関する問題が出題された。JGの社会は幅広い視野と正確な知識の理解力が問われる。漢字で正確に書くことも含め、入念な準備が必要とされる。

○合否を分けた問題

【大問3 問1・2】

・解説

 問1の問題。JGの入試問題で「死刑」ということばが登場するのははじめてではないか。近年問題になっている冤罪、DNA鑑定、再審請求などに関心を寄せているかが問われている。そのまま用語を答えさせるのではなく、時事問題にひと手間加えるのが最近のJG社会。JGを目指す受験生ならば、免田事件や足利事件、袴田事件などを知っていてほしいもの。問2は問1同様、人権に関する問題である。JGは以前より人権に関する問題が頻出する。学校の教育姿勢が如実に表れている入試問題といってよいだろう。

・解答

問1:イ 問2:オ
 

◆国語(制限時間:40分/配点:100点) ※問題は割愛しました

 以前は文章3題構成のJGの国語入試問題だったが、2015年度は3年連続で文章2題構成であった。今後もこの構成で定着しそうだ。しかしながら、処理スピードが問われ、かつ論理性が追究される傾向に変化はない。また、文章を「具象」「抽象」に分けながら全体像を丁寧につかんでいく作業も求められている。なおかつ、幾つも登場する短記述をすばやく処理しなければならない。大問2の5択の選択肢あたりで苦労した受験生も多かったかもしれない。JGの国語では大人顔負けの「語彙力」「論理的思考力」を有していないとなかなか太刀打ちができない。


雙葉中学校

2015年度入試問題分析

 雙葉の入試問題の難易度はその年によってかなりバラツキがある。2015年度は合格最低点(203点/300点満点)を考えると、全体的に問題は易化傾向にある。裏返して言えば、基本知識が少しでも欠如していれば、他の受験生に大きく差をつけられてしまう。もちろん次年度以降の入試レベルは未知数であるため、雙葉の過去の入試問題を最低でも5~6年分はこなしておき、問題の難化に備える必要がある。


2015年度入試問題

算数(制限時間:50分/配点:100点)[PDF:149KB]
理科(制限時間:30分/配点:50点)[PDF:363KB]
社会(制限時間:30分/配点:50点)[PDF:538KB]


科目別問題の傾向と一部解答例

◆算数(制限時間:50分/配点:100点)

 2015年度入試は6年前以来の大問5題構成。試験時間が50分に変更されてからこの構成ははじめてである。雙葉の算数といえば、問題のテーマ自体はオーソドックスであるものの計算処理が大変煩雑な印象がある。しかし、今年の問題はそのような雰囲気が鳴りを潜め、全体的に取り組みやすい問題構成だったといえるだろう。ただし、油断は禁物。雙葉を目指すには、難化したときを考え、煩雑な処理を手早く正確におこなう力を磨いておかねばならない。

○合否を分けた問題

【大問5(2)】

・解説

(1)の問題を解くと分かるが、もとの水の深さは8cm。容器の面(あ)を下向きにしてしずめると水の深さが9cmになるので、容器の半分が水中にある。中にも水が入るので、厚みの分だけ水面が上がる。よって、27×27×(9-8)=729㎠が水中にしずんでいる容器の厚みとなる。容器は半分しずんでいるので、容器全体の厚みは729×2=1458㎠。容積は18×18×20-1458=5022㎠。雙葉の算数では、複雑な計算処理を正確におこなうことが求められる。単に計算のスピードを追い求めるだけではなく、比の利用や結合・分配法則の活用など、手早く簡単に計算する術を身につけねばならない。

・解答

5022㎠


◆理科(制限時間:30分/配点:50点)

 2015年度の雙葉理科は構成に大きな変更があり、大問は3題(昨年度は4題)であった。また、記述問題が減るとともに、計算問題も答えのみを書く形式(例年は計算の過程も書かせる)となった。しかし、例年雙葉の理科は思考力を問われる問題が多く出題される。具体的には実験から考察できること、記述や作図、計算問題など。日頃から様々なことに疑問を持ち、それを説明できるように考えたり、調べたりする習慣を付けたいもの。

○合否を分けた問題

【大問2 問4(1)】

・解説

 農家がミツバチを飼育する理由は大きく分けて2つ考えられる。1つは、はちみつをはじめとするミツバチが集めてくるものを食品として加工するため。もう1つは、ビニールハウス栽培などでミツバチを放し、花粉を運ばせて受粉の手伝いをさせるためである。後者は、イチゴなどの果実を栽培する際に利用されている農法で、かつてミツバチが不足していた時期にイチゴの栽培が進められず、実際にニュースになったことがある。このように、身近な事柄に疑問を持ち、調べ、理解を深めることが大事。社会で学習する事柄やニュースで耳にする事柄も学習の材料である。アンテナを張り、科目や分野にとらわれず学習を深めていく姿勢が必要。

・解答

イチゴなどの果実


◆社会(制限時間:30分/配点:50点)

 2015年度の雙葉社会は、例年同様大問3題の構成。記号選択問題が中心であり、論述問題は1問のみ。大問1は東京を題材にした地理の総合問題。大問2は国際社会を中心にした公民の総合問題。大問3は原始時代から現代までの外交史の問題が出題された。雙葉の社会は幅広い知識と思考力が問われるため、平生の真摯な学習姿勢が問われている。

○合否を分けた問題

【大問1 問5(3)】

・解説

 なんだかJGで狙われそうな問題である。原子力発電所に関するもの。雙葉では前年の時事問題がそのまま出題されることはほとんどなく、数年前のできごとをもとにして出題されることが多いのが特徴的。たとえ学習していなくとも、核により過去甚大な被害を受けた県や人口密集地域の近くには原子力発電所は普通作らないだろうという常識的な判断を下してほしい。

・解答

ロ・リ・ヌ


【大問1 問7】

・解説

 雙葉の社会では、伝統的な事物や言葉に目を向けさせる問題が多く出題される。高冷地農業(抑制栽培)の利点を説明する問題だが、「旬」を使って説明しなさいというのが雙葉らしいところである。

・解答

 他の産地では春や秋に旬となる野菜を、冷涼な高原の気候を利用して夏に安定的な価格で出荷できるから。