自力で生き抜くために、自らの身体を売る
『家のない少女』は、僕の初めての単著で、虐待や貧困など崩壊環境の家庭や居づらい施設養護の場から緊急避難的に路上に飛び出し、生きるために売春をしている少女らを取材して書き上げた本だった。
取材の端緒は、東京都心において夏休みなどを中心に「プチ家出」と言われる少女らの存在が増え、90年代の援助交際などと同様の社会現象として語られるようになったこと。その当事者の取材を重ねるうちに、「プチ」じゃない少女らがその中に混在していることに気づいたのが、取材を継続した理由だった。
プチではなく本気の家出。むしろ絶対に帰らないという覚悟を定めて路上生活を続ける少女らは、決まって「帰ったらその身が危険」というほど劣悪な生育環境や不自由の中に生きてきた子たちだった。彼女たちのしている「援助交際」は実際には単なる売春で、彼女たちにはそれぞれに、今日の宿と明日の飯を得るために、自力で生き抜くために、自らの身体を売る必要に駆られていた。
21世紀の日本に、生き延びるために売春を選ぶ未成年がいる。当人たちの話を聞けば聞くほどに環境は劣悪で、それ以外の選択肢には常に彼女ら自身の「耐え難い我慢」が要求される。
そんな少女らが、90年代に盛んに語られた「流行やカルチャー、自己実現や承認欲求のための援助交際」みたいな文脈で語られるのを黙って見すごせるか。
義憤めいた衝動から書き上げたその1冊を手に、読者であり当事者でもあるだろう少女は、僕の前で額に青筋立てんばかりの表情で、僕を睨みつけていた。
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