2年に及んだ聞き取り取材
そうではない。
路上に生きる十代の少女らの幼い心の底に鉛のように重く沈んでいる「あたしたちは苦しい」「助けてほしかった」の言葉をこそ、真剣に掬い取って、きちんと正しく広く世に届けたい。
ノンフィクション表現ではフィルターが必要になるなら、小説でも映画でも漫画でも演劇でも音楽でも、その表現手段は問わないが、僕は絵も描けないし歌えないし踊ることもできず、やれるのは文字を書くことだけだ。
書き手なんて、なんと無力なのだろう。
そんな葛藤を抱えていた僕の前に現れたこの少女は、当事者でありながら最強の代弁者に思えた。「鈴木さんの本はカタログだ」と言い放った里奈は、仲間の少女らのために義憤に駆られ、その本当の物語を伝えたいのだと、僕に詰め寄って来た。
彼女を素材に、どれだけのことが聞き取れ、書けるのだろう。彼女の生き様を徹底的に聞き取ることで、ノンフィクション以外の表現で彼女らのことを伝えてみたい。
結果としてそれが小説表現になるとまではその時点では考えていなかったが、そんな下心を胸に、2年越しという長期間に及ぶ聞き取り取材を始めたのだった。
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