育った家は、少し変わった家族構成だった。父は坂の町で小さな酒屋を経営していた。酒屋の店舗の奥に六畳と四畳半の部屋があり、ここに父と母、僕と弟の四人が暮らした。夜は布団を三組並べ、夏場は足元に置いた扇風機の首を回して寝る。
実際には二階にもう一部屋あったが、こちらは父の麻雀(マージャン)部屋で生活空間ではなかった。
この店舗兼自宅の裏に、父方の祖母と二人の伯母が暮らす家があった。祖父は父が幼少のころに病気で亡くなっており、祖母が女手一つで二人の伯母と父、そして中学を出るとすぐに大阪の親戚に預けられたというもう一人の叔母を育て上げたという。
店舗兼自宅には風呂がなく、毎晩この裏の家で風呂に入った。隣に祖母や伯母たちが暮らしているというよりは、七人が二軒の家を使って生活しているような雰囲気だった。
子供たち以外は女ばかりの家で、父は王様のようだった。おそらく台所で湯を沸かしたこともなかったはずだ。
逆に母の立場を考えると、少し不憫(ふびん)になる。決して陰険な関係ではなかったと思うが、姑(しゅうとめ)と小姑(こじゅうと)二人が暮らす家で毎晩風呂を借りる生活というのは、やはり気を遣う。
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