- 2019.12.07
- 書評
前代未聞の1万字解説! 「苛烈で、繊細で、孤独で、その瞬間、一人だけ共にいた」
文:小林直己 (EXILE/三代目J SOUL BROTHERS)
『主君 井伊の赤鬼・直政伝』(高殿 円 著)
直政の名前の変遷は、彼の従属先の変遷とも言える。
一五六一年:井伊虎松(井伊直親の嫡男として誕生)
一五七二年:松下虎松(実母が松下源太郎に再嫁)
一五七五年:井伊万千代(徳川家康に出仕)
一五八二年:井伊直政(元服し井伊家当主となる)
ここで、物語の中で重要な役割を担う「起請文」について触れておく。起請文は、平安時代から江戸時代まで使用されていた文書で、人が契約を交わすとき、または、行いを遵守し、それを破らないことを神仏に誓うものである。まず約束や契約の内容を書き、次に差し出し者が信仰する神仏の名前を列挙する。最後に、約束を破った場合にこれら神仏による罰を受けるという文言を書く。直政は、神仏の名として、「正八幡大菩薩あまつ大小神、薬師如来三世諸仏」と挙げていたが、これを、敵地へ駆けて行く際にも常に叫んでいた。つまり、命はとうに神仏に捧げており、天に全てを委ねていたのである。ちなみに、井伊家家老・新野家に伝来した古軍旗にも、「八幡大菩薩」の字が読み取れる。
直政の子孫である井伊家十三代目は、桜田門外の変で殺害された徳川家・大老職を務めていた井伊直弼である。アメリカとの日米修好通商条約を結んだ直弼を近年、日本を開国に導いた人物として再評価する動きもある。
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