いつのまにやら昭和が終わったらしい。
生まれたときから昭和で、物心ついても親元を離れて働きに出ても、日本中が初のオリンピックに浮かれていても時代はずっと昭和だった。そりゃまあ、世の中の仕組みからいって天皇さんがお亡くなりになれば元号は変わるのだろうが、ルーには永遠に続くような気がしていたから、テレビや新聞が盛んに、今日から平成ですよと繰り返してもピンとはこない。
「ああー、ケッちゃん、マニキュアはげた。もうあかんわ、新しいの買うてきて!」
そんなことより、昨日の晩に六本木の美容室で塗ってもらったマニキュアがもうヨレて無様な皺がいくつもできてしまっていることのほうがルーには気に掛かった。
「なに言ってるんですか、ルーさん。もうすぐ本番ですよ」
「でも、だってマニキュアが」
「爪なんて誰も見てないんだし、ほら、もう一回化粧直すんでしょ。今日はちゃんと紹介する商品の説明、聞いてくださいよ」
新川(しんかわ)にある東京テレビの収録スタジオは古くていつもかびくさい匂いに満ちている。もう少ししたら海側に新しい社屋が建つのだという。どこもかしこも景気のいいことだ。ルーはマネージャーの家沼(いえぬま)になだめすかされながら、天井の低い廊下をのろのろ歩いた。
「誰も爪見てないゆうて、そんなんうちの顔だって見てへんわ。そういうことやのうて、皺寄ってるんが気に入らんゆうてんの。あ、おはようさんです。今日もお世話になりますおばちゃんのルーです」
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