そこから先は、まるで流れ作業みたいに淡々と進んでいった。
園長が、わかったか、わかったか、と言いながら、横一列に並んだ子供たちに向かって、次々とどんぐりを投げつけていく。どんぐりの当たった子から順番に、ふえ~んと泣きだす。泣きだした子から、マキ先生の所へ助けを求めに駆け寄っていく。マキ先生は泣いている子の涙をハンカチで優しく拭いてやり、よしよしと頭を二回なでてから、園舎のほうへ背中をそうっと押してやる。「もう大丈夫だから、ね。教室でおりこうにしてなさい」。そうして、子供たちは、一人、また一人、と園庭からいなくなった。
七未は最後まで園庭に残った。園長の投げたどんぐりが、七未にだけ、なかなか命中しなかったからだ。
「おい、よけるな」
次第にいらいらとしてきた園長が、怖い顔で言った。
「待て、逃げるな」
あまりの恐怖に七未はその場に立っていられなくなり、ついに駆けだしてしまった。
「こら、待てったら!」
気づけば七未と園長は二人で園庭を走り回っていた。どんぐりの詰まったバケツを手にした園長が、どこまでもどこまでも追いかけてくる。
「待てっ。くそっ」
何十個ものどんぐりが、七未に向かって投げつけられた。投げられたどんぐりは、すべて七未の頭上や体の横を通過して、動物たちの小屋の壁や遊具に当たって跳ね返った。次第に園長は、待てと言わなくなった。その辺に落ちているどんぐりを拾っては七未に向かって無言で投げ続けた。
いつ終わるとも知れないどんぐり攻撃から逃げ回っているその最中、七未は、ふと自分の名前が呼ばれたのを耳にした。「ナナちゃん」と、その声は上のほうから聴こえてきた。
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