みんなが一斉に校門に向かって走りだしたのを見て、七未も慌てて立ち上がった。彼らの前を走って通り過ぎると、今度は背後で「おい、止まれ!」という声がした。
足を止めて振り向くと、六年生の誰かがこちらに向かって何かを放ったのが見えた。
野球ボールほどの大きさの、オレンジ色をした球体だった。球体は七未の頭の上を飛び越えて、七未のななめ後ろにいた子の頭に当たり、パン! と音を立てて割れた。
「キャアッ」
その子の髪と顔が、一瞬でびしょ濡れになった。六年生が投げたのは水風船だった。
「イエーイ! 命中!」
続いて二投目、三投目の水風船が飛んできた。二投目の青い水風船は七未の左隣りにいた男の子の肩に当たって割れ、三投目のピンクの水風船は七未のすぐ隣りにいた女の子の腹に当たって割れた。校庭の至るところで風船のはじける音と悲鳴が上がった。手洗い場では次から次へと新しい水風船が作られていた。キャア、冷たい、痛い。大人は助けにこなかった。一階の職員室には誰もいないのか、窓には人影一つ映らなかった。びしょ濡れになった子たちは泣きながら校門をくぐり抜け、一目散にそれぞれの自宅へと走っていった。七未も自分の家を目指して走った。走る七未の背中を自転車に乗った六年生たちが追いかけた。当然すぐに追いつかれ、水風船を投げられた。
この続きは、「文學界」1月号に全文掲載されています。
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