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芥川賞作家が選んだ「寅さん」からの言葉──心に沁みる154のメッセージ

芥川賞作家が選んだ「寅さん」からの言葉──心に沁みる154のメッセージ

滝口 悠生

「男はつらいよ お帰り 寅さん」12月27日本日公開!


ジャンル : #ノンフィクション

『いま、幸せかい? 「寅さん」からの言葉』(滝口悠生 選)

 実は本書の企画は当初、「名言集」あるいは「名セリフ集」を編もう、というものだった。しかし、台本を読んでいくうち気づいたのは、映像で観ると印象的なセリフでも、そのひと言だけ抜いて文字で読んだのでは、なかなかその魅力が十全に伝わらないことも多い、ということである。

 当然ながらそこには俳優の声も表情もないのであって、どんな名セリフも映像で観るのと文字で読むのとでは全然違うのだ。

 また、そもそも「男はつらいよ」のセリフの魅力は、登場人物たちのやりとりやかけ合い、ウィットに富んだ混ぜっ返しなどが混交されたうねりのなかから生まれるものが多いことにも気づかされた。だから、ひと言だけ引くと単に笑えるセリフであっても、その前後を併せて見ると、そのひと言が笑えるだけでなく微妙な悲哀を帯びてくる、というようなことがしばしばある。

 コアなファンに向けるだけなら、ひと言を抜くセリフ集でもいいのかもしれない。既に何度も映画を観ているひとなら、そのひと言だけで、役者の声や調子、あるいはそのひと言に至るやりとりなどもすぐに思い出せるからだ。実際、そういうセリフ集、名言集の類ならば先行する出版物は既に多くある。しかし本書は企画当初から、「コアなファンだけでなく若いひとにも読んでもらえる本にすること」を方針のひとつにしていた(それは山田監督が新作にこめた思いにも通じると思う)。若輩の私に声がかかったのも、それゆえと思う。となれば、自分と同世代や自分よりも年下の、まだ「男はつらいよ」を観たことのないひとが文字だけで読んだときにも、その魅力をちゃんと感じとれるような言葉を選ぶ必要がある。

文春新書
いま、幸せかい?
「寅さん」からの言葉
滝口悠生

定価:880円(税込)発売日:2019年12月18日

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