- 2019.12.27
- インタビュー・対談
芥川賞作家が選んだ「寅さん」からの言葉──心に沁みる154のメッセージ
滝口 悠生
「男はつらいよ お帰り 寅さん」12月27日本日公開!
ジャンル :
#ノンフィクション
そこで、本書はセリフを短く抜くのではなく、やりとりの妙を味わえる「場面」を中心に選ぶ方針を立てた。そのうえで七つの章を設け、選んだ各場面を振り分けて構成した。各場面には、必要に応じ場面の簡単な説明と、選者によるコメントを添えた。
上の方針ゆえに、本シリーズを代表するような名場面であっても、その魅力を文字だけで伝えるのが難しいと判断した場合には泣く泣く外さざるをえないことも多かった。往年のファンの方にあっては、あの場面がない、あのセリフがない、と思い当たるものがきっとたくさんあると思う。しかしその気持ちは選者も同じなのでどうかご容赦願いたい。文藝春秋社には、新書といわずいずれ分厚い辞典のような寅さん本を刊行してほしい。
章立てについては、各章の冒頭にも短い解説をつけているので詳しくはそちらをご覧いただきたいが、とりわけ「第4章 女性の生き方について」「第6章 みんなが語る寅さん」「第7章 満男へのメッセージ」の三章は、本書の特色となりうるものかもしれない。
いずれも、従来の見方とは少し違う角度から捉えた「男はつらいよ」観が示されているのではないかと思う。それは、本書を編むにあたって選者自身が新たに持ち得た視点でもある。全作の台本を通読し、「男はつらいよ」という作品世界を俯瞰的に捉えることで、右の三章に対応する形で、「シリーズの初期から一貫して自立的な女性のあり方が示されていたこと」「周囲の人びとの言葉が、寅の言葉以上に寅を言い表していること」「寅と満男のリレーションシップがこの映画シリーズにおいて持ちうる意味」に気づくことができた。
ちなみに全国公開からひと足早く試写で観た新作では、右の三つの要素がいっそう先鋭化して作品を彩り、縁取っていた印象だった。選者としては右の三章を設けた目論見が図らずも裏付けられたような気持ちになって嬉しかった。
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。